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ベッドに横たわってつらつら昔のことを思い出していたら、気分はマシになるどころか、ますます気持ち悪くなってきた。
気分転換でもしようと鞄からスマホを取り出し、ネットサーフィンをしていると、ニュースサイトの記事が目にとまった。
『最初の人魚、堂々の再来日!』
マリンは、世界中の水族館で見世物になっていた。マリンの声を使って他の人魚を呼び寄せ、ほかにも何体かの捕獲に成功したらしいが、お披露目されている人魚はまだマリンだけだ。
「……来るのか」
僕はひとでごった返した水族館に行って、吐き気と戦いながら、大きな水槽に近づいた。
「マリン」
名を呼ぶと、マリンは僕と分厚いガラス越しに目を合わせてくれた。
彼女の顔には憎しみも怒りもなく、しかし笑顔もなかった。
許さない、という声が聞こえた気がした。しかし、マリンの口は動いていない。
許さないという声は、僕の心の奥底から湧いていたのだ。
僕は僕を、絶対に許せない。許さない。
「……ごめん」
謝っても、どうにもならない。後悔のあまり、涙が出た。周囲がざわついても、気にならなかった。
僕は永遠に、罪を背負っていくのだろう。
(了)
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