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18:40 二階ベッドルーム
「やれやれ、たまに早く帰ってみれば……」
部屋の入り口で、タクは眉を顰めた。普段なら帰宅時には冷えているリビングが地獄のように暑く、食事の用意もない。生ゴミからか、部屋にはかすかに異臭が漂っていた。
「母さんはどこに行ったんだ?」
階段に向かいながらトイレと洗面所を確認したが、誰もいないらしい。
急用でもできたのだろうか。胸ポケットから出してスマホを確認しても、家族からの連絡は何もなかった。
父は妻の不在や家事の不備を許さないタイプの男ではないが、妹がこぼす愚痴を延々と聞かされては気が滅入る。
駅前のコンビニで弁当でも買ってくれば良かったか、そう思いながら自室に足を踏み入れた瞬間。耳元で、ヒュッとわずかな音がした。
「……っ!?」
首の後ろに衝撃が走る。膝をついて横向きに倒れたタクを、黒いフードの男が上から覗き込んでいた。恐るおそる指先で触れた自分の延髄には、細い棒のようなものが深く突き刺さっている。
「何者だ!?」
タクはそう聞いたつもりだったが、その言葉は音にならなかった。ひどい眩暈がして、赤く染まっていく視界を閉ざす。
彼はそのまま、二度と目を覚ますことはなかった。
「ひひ……っ」
黒ずくめの男は足元でタクがこと切れたのを確認すると、クローゼットの扉を開け、彼の足首を掴んだ。
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