19:35 洗面所 

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「ケホッ」  バスルームから、小さな咳が聞こえた。  恩田が振り向いたときにはもう、姿勢を低くしたjaMがドアを開けていた。 「ひぃ……っ!」  化粧が半端に落ち、髪の乱れた娘が、蒼白な顔をこちらに向けている。マニキュアを塗った白魚のような手が、豊かな胸の前で震えていた。 「お父さん……助けて……」  涙を溜めたユキナの目が、濡れた髪の隙間から恩田を見上げている。この窮地を自力で切り抜けるのは無理だと、さすがに分かっているらしい。 「仕留め損なっているじゃないか」  恩田の冷ややかな視線を受け、jaMがチェシャ猫のように顔を歪めた。 「死んだふりなんて、ふざけたことしてくれるじゃん……」  手練れの暗殺者が、世にも楽しげにアイスピックをくるくる回す。 「お父、さん……」  一縷の望みに縋って自分を呼ぶユキナから、恩田は目を逸らした。
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