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19:30 LDK
「お母さん?」
恩田は誰もいないリビングで周りを見回した。玄関で「ただいま」に返事がないことにも違和感を覚えたが、夕飯時なのに食卓には何も乗っていない。
「タク? ユキナ?」
息子の名を呼んだものの、商社マンのタクがこの時間に家にいることは稀だ。大学が夏休み中のユキナは、遊びに行っているのかもしれない。が、妻がこの時間に不在なのは珍しい。
「買い忘れでもあったのかな……?」
防犯上、妻は外出時に窓を開け放すことを許さない。小さな一軒家のLDKは、真夏の太陽に温められた空気で蒸し暑かった。
リモコンを探して冷房をつける、15分後の快適を約束するそれだけの動作が億劫だ。恩田は鞄を床に置き、キッチンの冷蔵庫に目を向けた。
とりあえず、ビール。
いや、先に着替えよう。クローゼットでワイシャツとスラックスを脱ぎ捨て、ラフな服で寛ぐんだ。
その前にまず、手を洗うべきだろう。ついでに顔も洗ってしまえばいい。
恩田は一つ息を吐き、重い足取りで洗面所に向かった。
もしも彼がビールを取ろうとしたら、気づいただろう。ファミリー用の大きな冷蔵庫の下には、本来なら庫内にあるべき食品が、乱雑に散らかされていた。
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