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 気が付くと、私は例の部屋の床に横たわっていた。眼前には水気の多い、血と花弁の混じった吐瀉物が散らばっている。取り込んだ彼女が出て行ってしまうといけないので、私は花弁を拾い集めて咀嚼した。喉の奥から、さらに生臭い淡水がこみ上げてくる。パイプの喉と舌の無い口のままだったら良かったのに。  最初に目を覚ました時に見た、天使の残骸を思い出す。あの残骸も、飲み込んでおけばよかっただろうか。  螺子をからくり椅子に嵌めなくては。腕を大きく動かして床の上を浚ったが、沢山拾ったはずの螺子が一つも見つからない。床の上をぼやけた視界で確認する。無い。まさか、置いてきてしまったのだろうか。窒息の寸前はかなり朦朧としていたから、あり得なくはない。もしそうならば、何とかして戻らなくてはいけない。 「螺子は嵌めておいたよ」  視界の端、姿見から声が聞こえる。こいつが初めて役に立ったな、と思った。鏡の中からどうやって椅子の修理をしたのか、という事は気にしないことにしておく。  私は眩暈を押し殺しながら立ち上がる。吐瀉物の上に倒れ込むのは勘弁したい。内臓が縦向きになった衝撃か、立った瞬間吐き気がこみ上げたが、喉元で飲み込んで耐えた。ふらつきながら、彼女の下へ向かう。ぼやけていた視界が焦点を結び、思考が冴えた冬の海のように澄んでいく。  素人目に見て、もう椅子にパーツを嵌められそうな場所は無い。いよいよだ。この部屋に来た時から、微動だにしていない。ガラスケースのような椅子と、模型のような彼女。そんな印象も、今に塗りつぶされるだろう。  私は期待に震える指でボタンを押した。プラスチックが内側に押し込まれる音が、嫌に響く。彼女の顔を覗き込む。目が覚めたら、どんな話をしよう。また二人で博物館に行こうか。今度は一緒にケーキを作ろうか。水槽に新しい魚を入れようか。  微かに、内部の機械が擦れる音がした。心臓が跳ねる。彼女の第一声が鼓動で搔き消えてしまわないように、耳を澄ます。 お分かりいただけたでしょうか。何時かに聞いた音声が流れる。 それだけだった
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