夜想曲、転調

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 目に飛び込んできたのは、箱一杯の白米と真ん中に大きな梅干しひとつ。  日の丸弁当だ。  おかずは別箱かと鞄を探る。  しかし、何も無かった。  ゆっくりと蓋を閉めた後、席を立ち自販機でUCCブラックを購入し喫煙室へ入った。  喫煙室に設置されているパイプの丸椅子に座り、胸ポケットから100円ライターとラッキーストライクを箱ごと取り出し机に置いてから、再びスマートフォンで妻からの返信をチェックした。  やはり返事はない。  まだ寝ているのかと思ったが、既読は付いている。  昨晩は楽しかった。  はずだ。  映画の話になり妻が気になっている映画が観たいというのでソファに移動し、TVの電源を入れサブスクリプションサービスチャンネルに切り替えた。  腰を据える前にと妻が御手洗いに立つ。  その間に新たにつまみを用意しようとしたところで記憶は途絶えていた。  何度か起こされた気がする。  強く揺さぶられた気もする。  最後に聞いた妻の言葉は「おやすみ」だった。  気もする。  いや、大きなため息を吐いていた。  吐いていなかったかもしれないが、絶対吐いてた。    スマートフォンの画面の向こうを漂っていた視線を机に置いたラッキーストライクに移し、かすかに震える手で一本取り出して口に咥えてから火を着けた。  深呼吸のように少し大きく吸い込み、大げさに煙を吐き出す。  空中に広がりながら薄まってゆく紫煙が喫煙室に備え付けられた換気扇に吸い込まれていく。  その光景を呆然と眺めながら俺は呟いた。 「めっちゃ怒ってる……」
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