慣れない都会

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慣れない都会

ミーン、ミンミンミン… 「都会でも、蝉っているんだ…」 社屋から1歩出た途端、思わず呟いた私。 想像を上回る外の気温の高さ。 今が真夏であることは百も承知だし、ましてや定時に上がって飛び出してきた。 だけど吸い込んだ酸素のあまりの気温差に、私の肺がビックリした。社内の冷房でひんやりしていた体が、一瞬で解凍される。 「あぁ、でも家にも帰りたくない……」 そうつぶやいて足早に、涼しいお店を探す。上からも下からも横からも熱気がくる、都会特有のアスファルトの上を歩き始めた。 4月から就職して1人暮らしを始めた私は、まだこの独特の暑さに慣れない。田舎では上から照りつける太陽だけが敵だったのに…。ここでは色んな角度から乱反射した紫外線に攻撃を受ける。夕方になっても涼しい風なんて吹かない。微かに吹くのは、熱風だ。 この環境に慣れたら、その熱風に小さな幸せを感じるようになるのだろうか。 その前に暑さで倒れても、家族は傍にいない。そんなに食欲もないけど、何か食べなきゃ。 ありがたいことに社内環境も悪くなく、仕事は少しずつ慣れてきた。 4ヶ月目に突入したひとり暮らしや入社直後の緊張感が少しほぐれて、自分の疲れに目を向けられる余裕がでてきた。 それが表に出てしまっていたみたい。 『ちょっと疲れてるでしょ。    定時で帰りな?いま急ぎはないよね』 今日のお昼休み、先輩にそんなセリフを言わせてしまった。 ああ、まだまだだなぁ私……
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