待ち合わせは、夏空の記憶

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待ち合わせは、夏空の記憶

私の部屋の窓からは、どんな日もほんのり輝くタワーが見える。 あの頃より、もっと近くに。 私が元気な時も、そうでない時も。 あれから10年後の夏の夜に、もういいだろう、時効だろうというつもりで10周年記念だ!と、思いきってあのタワーへ行った。 それまでは、思い出すといけないと思って、避けて生きてきた。 そしてさらに10年経った。 今、同じく夏の夜に、私はお風呂上がりの濡れた髪のままベランダに立っている。ここからはあの頃より、もっと近くにタワーが見える。 当時の淡い記憶を思い出しながら、肩からタオルが落ちないように缶チューハイのプルタブを開ける。 懐かしいなぁ……と、思えるようになった。 そのくらい、時が経ったの。 あの彼だって、現役を引退済みだもの。 夏の夜風に吹かれながら、 都会の夏にも慣れた自分を感じる。 感傷に浸っていると、同じくお風呂上がりの人がお揃いの缶チューハイを片手に、濡れた髪のままベランダへやってきた。 彼の左手の薬指にも、お揃いのリングが光っている。 『ねぇ、たしかにここに住みたいと言ったのは君だし、僕も賛成したけど……』 「うん、そうよね」 『だからって毎日出会った日の事ばかり思い出してないで、ちゃんと今の僕を見て?』 そう言って、少し不機嫌そうに拗ねている。私だけが知るそんな姿も、可愛い。 彼こそあの日から20年、一度も揺るがない私の最愛の推しである。
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