空っぽな僕を、君で満たして ※

7/7
前へ
/28ページ
次へ
 そしてそれに戸惑う僕を見つめるその瞳は、いつになく優しい。 「なんで俺がお前に、教室では話しかけないのか、ねぇ……」  ぐりぐりと、頬に頬を押し当てて。  僕から体を離したかと思うと、思いっきり耳元を引っ張り、叫んだ。 「俺と話してるのを他のヤツに見られて、お前がめちゃくちゃ可愛いのがバレたら嫌だからに、決まってんだろうが。バ――――カ!」 「!?」  あまりにも、予想外な言葉。  しかしその音量があまりにも大き過ぎたため、まだ耳の奥がグワングワンと鳴っている。   「はぁ……。一生、言わないつもりだったのに。天然、マジでこえぇ!」  ククッと笑いながら、言われて。  今度は優しく、頬に口付けられた。 「って事で、田崎。これからもお前の泣き顔も、笑顔も、怒った顔も。ぜ―――んぶ、俺のもんだから」  いつもみたいに、くしゃりと僕の髪に触れる田橋くん。  そして彼は呆ける僕を放置したまま、サッサと立ち上がった。  それからお尻についた土埃をパンパンと手で払い、ニヤリと意地悪く笑った。 「ところでさぁ、田崎。そろそろホームルームが、始まるぞ?」  その言葉で、ようやく我にかえる僕。  慌てて身支度を整える僕を見て、ククッと笑いながら彼は、いつもみたいにガチャリとドアを開け、階段をサッサと降りて行ってしまった。 「……ホント、ムカつく」    だけどそう呟いた僕の顔はきっと、真っ赤に染まっていたに違いない。                【了】
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加