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そしてそれに戸惑う僕を見つめるその瞳は、いつになく優しい。
「なんで俺がお前に、教室では話しかけないのか、ねぇ……」
ぐりぐりと、頬に頬を押し当てて。
僕から体を離したかと思うと、思いっきり耳元を引っ張り、叫んだ。
「俺と話してるのを他のヤツに見られて、お前がめちゃくちゃ可愛いのがバレたら嫌だからに、決まってんだろうが。バ――――カ!」
「!?」
あまりにも、予想外な言葉。
しかしその音量があまりにも大き過ぎたため、まだ耳の奥がグワングワンと鳴っている。
「はぁ……。一生、言わないつもりだったのに。天然、マジでこえぇ!」
ククッと笑いながら、言われて。
今度は優しく、頬に口付けられた。
「って事で、田崎。これからもお前の泣き顔も、笑顔も、怒った顔も。ぜ―――んぶ、俺のもんだから」
いつもみたいに、くしゃりと僕の髪に触れる田橋くん。
そして彼は呆ける僕を放置したまま、サッサと立ち上がった。
それからお尻についた土埃をパンパンと手で払い、ニヤリと意地悪く笑った。
「ところでさぁ、田崎。そろそろホームルームが、始まるぞ?」
その言葉で、ようやく我にかえる僕。
慌てて身支度を整える僕を見て、ククッと笑いながら彼は、いつもみたいにガチャリとドアを開け、階段をサッサと降りて行ってしまった。
「……ホント、ムカつく」
だけどそう呟いた僕の顔はきっと、真っ赤に染まっていたに違いない。
【了】
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