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 常に他者との境界線が曖昧(あいまい)で、見えない鎖に縛られがちな俺が、バーで彼女を見つけた瞬間に確信した。  あぁ。やっぱ、俺、琴香(ことか)が好きだわ。  心に引力が生じているように。  遠心力も加わって速さを増すように。 「まさか、あんなとこで新琉(あたる)に会うなんて」 「それはこっちのセリフだから」  土曜の夜街の喧騒が半地下の窓外を彩っているけれど、その外界からも、数人の先客からも、あえて距離を取るようについた丸テーブルの視野に映るのは、手元をぼんやりと照らす間接照明のまどろみと、薄暗い闇のベールをまとう琴香の少し上がった口角だけ。  心と心の間隔のろうそくを一つ一つ灯すように、語尾までていねいに吟味した言葉を、ぽつりぽつりと配置していく。 「琴香、少し雰囲気変わったよね。そのブルーのワンピース、よく似合ってる」 「あれから五年、か。でも新琉は、大学時代からタイムリープしてきたみたいだけどね」 「それが外見だけならいいけど、内面までとなると、残念な男すぎるだろ」 「ふふ。進むために変わらないことって、そんなにカッコ悪くないと思うよ」  昼間の太陽のように、コロコロと笑う。  懐かしい笑顔にホッとして、椅子の背に深くもたれ掛かると、なだらかなUの字を描く、長いまつ毛の隙間からのぞいた大きな瞳に視線をとらえられて、思わず心臓が喉からこぼれ落ちそうになる。
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