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「うん、文之。ここでいいよ。ここに住もう」
「いいのか? 調べたいことは分かったのか?」
「ええ、調べたわ。もう大丈夫よ」
沙織は微笑んだ。そして、今度は自分から俺の腕の中に飛び込んでくる。沙織の柔らかい肢体が俺の胸板に触れる。
「私、幸せよ、ここで文之と新しい家庭を築けるなんて」
「俺もだよ、沙織」
俺は沙織の大胆な行動に少しどきり、としながら彼女を受け止めた。何もない部屋に俺たちの重なり合った影が伸びる。
幸せだな、と俺も心から感慨を噛みしめる。時刻はもう正午、真昼のひかりが眩しい。俺は目を細めながら窓の外に視線を放った。すると、遥か遠くに観覧車のシルエットが夏空に浮かんでいるのが見えた。
俺はそれを見ながら、野菜を育てるのも良いけど、休日はふたりで遊園地デートなんかも初々しくて良いな、など、心ここにあらずといった胸中で考えた。
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