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1年が過ぎた。
夜8時の夏の夜、会社から帰ってきた俺を迎えたのは、真っ暗なリビングで、ひとり泣いている沙織だ。
「……どうして、どうしてよ……」
部屋の隅に蹲った沙織の元に、驚いた俺は、ただいま、もそこそこに駆けつける。
「どうした、沙織? 具合でも悪いのか」
握った沙織の手は小刻みに震えている。だが沙織は俺の声にも応えず、泣きながら呻くのみだ。
「どうして……どうしてなのよ、ちゃんと調べたのに……」
「調べた?」
何のことか分からずに俺は唖然として、仄暗い空間に浮かぶ沙織の顔をのぞき見る。すると沙織は、震える指先を、ゆっくりと窓へと向けた。
「え? 外?」
俺は沙織の指に導かれるまま視線を、窓の外に向ける。
すると、夜空の地平線ギリギリに浮かんだ観覧車の影の横に、打ち上げ花火がちらちらと煌めいているのが窺えた。
どーん、どん、どーん、どん、という音も微かに聞こえる。
「打ち上げ花火……じゃないか、それがどうかしたのか?」
「どうもこうもないわよ! なんで花火が見えるのよ! この市には花火大会なんてないって、あれだけ調べたのに!」
沙織は金切り声でそう叫ぶと、床に伏せた姿勢のまま、わっと号泣した。何が何だか分からず、スーツ姿のまま立ち尽くす俺を置いてきぼりにして。
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