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次に目が覚めたとき、俺は病院のベッドの上に横たわっていた。
沙織は、俺に対する殺人未遂と、未成年者略取の容疑で緊急逮捕され、いまは警察に収監されているという。
「ただ、奥さん、完全に記憶を失っているんですよ。自分はまだ12歳で、隣の家の女の子と一緒に花火を見に行ったら、悪い人が来たので罰を与えて逃げてきただけだ、と供述していまして。精神鑑定が必要な状態です」
沙織の担当だという刑事が、残酷な事実を淡々と告げて病室を辞していったあと、俺は枕元のスマホを手に取って、何気なく検索をはじめていた。
今までのマンションにはもう住めないだろうから、新しい家を探さないといけないな、などと考えながら、不動産屋のサイトにアクセスし、そのまま、検索ボックスに文字を打ち込む。
「花火大会 ない 花火 見えない」
それは、もはや、現実逃避でしかないとは、分かってはいたが。
俺のその逡巡を見越したように、スマホの画面に躍るのは「検索結果 0件 キーワードを入れ直して再検索して下さい」という無機質な文字だけだった。
了
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