1話完結

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1話完結

キャバクラのボーイを始めて早数年… 毎日同じことの繰り返しで、特別楽しい事も悲しいことも無い… 今日も今日とて何事もなく一日が終わろうとしていた。 女の子たちを見送り裏口から外に出ようとすると、女の子の叫び声が聞こえた。 巻き込まれたくねぇな…と思いながらもうちのキャストだったら困ると思い、仕方なくゴミ出しついでに外に出た。 「よぉ」 『…んだよ…お前か…』 「いい足してたからさっ♡」 店の裏口の横でタバコ片手にしゃがみ込み、女にちょっかい出してたこの男は俺の…友達… いや、ただの友達と言うにはちょっと関係性が複雑かもしれない。 『この店のオンナはお触り禁止だ。触りたいなら別の店行けよ…』 「んなケチくさいこと言うなよぉ〜」 『ったく、何しに来たんだよ…』 「決まってんだろ?迎えに来たんじゃん…お前を…」 何しに来た?なんてそんなの分かりきった事なのに、俺はそれをどうしても確かめずにはいられない。 そして、お望み通りの返事に俺の頬が緩むのを見逃さなかった咲也はニヤリと笑い、タバコを口に咥えながら立ち上がると、今度は突然ただをこねる子供のように甘えだす。 「待ちくたびれたんだけどぉ…」 『お前が勝手に待ってたんじゃん…大体店まで来んなって言ったろ?』 咲也は咥えていたタバコを人差し指と親指で摘みふぅっと煙を吐き、反対側の手で俺のネクタイを掴かんで顔を近づけると、鋭い視線で睨みつけてきた。 「来ないと逃げんじゃん…」 『別に…逃げねぇよ…』 「そぉ?ならもう行こうぜ…我慢できねぇし…」 その言葉に俺の体はじわりと熱を帯びる… そして、今度は欲を含んだ瞳で見つめられればもう俺は逃げられない。 『…っ、わかったから…店閉めるからもうちょい待ってて』 「えぇ〜まだ待つのぉ…」 文句を言いながら短くなったタバコを地面に転がし、火を消す咲也の足元をふっと見れば、山のように積み上がった吸殻にまた頬が緩み嬉しさが込み上げてくる。 終わる時間知ってるくせに… どんだけ前から待ってたんだよ…/// そして咲也がまたしゃがみ込み、新しいタバコに火をつけたのを確認すると、俺は仕事を終わらせるべくまた店に戻った。 待ちきれない気持ちが溢れ出しソワソワと落ち着かない… 約束もなくふわっと現れてはふわっと消えていくコイツに、俺はずっと振り回されている。 いや、振り回されるフリして俺はいつもお前をずっと待ってんだ。 待ってたのは俺の方… 仕事を終え、俺らはいつものネオン街を抜けて細い路地に入り、誰にも見つからないようにこっそり近くのホテルに入って行く。 そして俺は今日も今日とて懲りること無く、コイツの沼にどっぷり浸かって堕ちていく… 『んっ…あ…っ』 「はぁっ…やっぱいいわっ…」 『…っ、よく言うよ…っ、俺だけじゃない くせにっ…』 「お互い様だろっ…」 『んぅっ…はぁっ…あぁっ、、』 「ん…っ、柊ぅ…っ、好きだよ…」 『…っ、嘘つき…っ』 お前は俺が良いわけじゃないんだろ? 俺自身が好きなんじゃなくて、この行為が好きなだけ。 今日はたまたま俺だっただけで、他のやつにだって同じことしてるんだろ? 待ち伏せされてはホテルに連れ込まれ、めちゃくちゃにされる… こんな事やめなきゃって何度も思ったけど、でも求められたら断れない。 だって俺はあの人よりも咲也の事が好きだから… だけど、どんなに求め合って夜を重ねてもこの想いは届かない。 こんなに側にいるのに… ねぇ、咲也? 本当に俺の事…好き? 俺は柊が好きだ。 だけど柊には昔からアイツがいて、俺が入り込める隙なんかない事は百も承知。 だけど、やっぱり諦めきれなくてこうやって待ち伏せしてはホテルに連れ込み行為を繰り返す。 俺ができる最大級の愛情表現のつもりだけど 柊には全然響いて無さそうだ。 いつになったらアイツと離れてくれんの? こんなに強く抱きしめてるのに、この想いは一向に届かない。 ねぇ、柊? 嘘なんかじゃないよ…俺はお前が好きなの… 『く…っ、締めんな…バカ…っ』 「うるせぇ…っ、こんくらいでイクなよバカ…っ」 「はっ…言ってくれんじゃん…っ、お前こそ ビクビクし過ぎっ…まだイクなよ…っ!」 「ぅあ"っ…あ…っ、やっ…」 「オラっ!もうイッちゃうか…っ?」 「んっ…はぁっ…まだ…っ、こんなんじゃイケ ねぇし…っ!」 「く…っ、はぁっ…あっ…イケよっ…!」 「んっ…イケねぇっ…よっ!」 どんなに暴言を吐きまくったって、繋がれるのが嬉しくて気持ちよすぎてもう我慢なんて出来ない。 やっぱ最高なんだけど… 柊を忘れようと思って色んなヤツとシてみたし、数だってこなしたけど結局柊とは比べ物にならなかった。 最初は体の相性が良いだけだと思ってたけどそんなんじゃない、俺はいつの間にか本気で柊を愛してたんだ… 与えたくて求めたくて、何度も何度も名前を呼び合い律動を繰り返し突き上げれば、気持ちも欲も溢れそうになる。 その度にイキたくないと願うのは、この夜を まだ終わらせたくはないから… 「…っ、く…っ」 「んぁ…っ、咲也っ…」 「はぁっ、柊っ!イっちゃう…っ?」 「やだ…っ、あっ、咲也ぁ…っ!イッ…あっ… やだぁっ、イ…クッッ…///」 「…っ、、柊ぅっ…くっ、イクッ…///」 同時に果てた俺らの欲は、腹の上で混ざり合いシーツに吸い込まれて俺らの夜は終わりを迎えた… 離れたくないと手を伸ばすのは簡単だが俺らにはそれが出来ない。 お互い浅い呼吸のまま、目を合わす事なく後始末を済ませてしまえば、再び抱き合う事も触れる事すらもない。 きっと今日もこのまま何事も無かったのように服を着て、すぐさま部屋を出ていくんだろうとお互いが思っていた。 だけどこの日は違った。 ベットのヘッドレストに寄りかかり服を着ること無く無言でタバコに手を伸ばす咲也… そして、そのままシャワーに向かう柊… そんな姿を見れば、もう少しだけ一緒にいれるかもなんて勝手に錯覚しそうになって、思わずお互いの名前を呼んだ。 「柊っ…」「咲也…」 「あ…なに…?」 「や…お前こそ…なんだよ」 だからと言って埋まらない微妙な距離感… 結局その先に続く言葉が見つからずに、二人の間に気まずい空気が流れる… 咥えたままのタバコからは煙が立ち上り火種はチリチリと長い灰になって重さに耐えきれず、咲也の腹の上に落ちた。 「あっちぃぃっ!」 「あっ…大丈夫か!?」 柊が咄嗟に駆け寄ってなりふり構わず灰を払い除けると、その手を咲夜が掴んだ。 「 バカっ、お前が火傷すんだろ?」 「大丈夫だよ…こんくらい…っ」 再び至近距離で目が合えば2人の距離は更に縮まって愛しさが募る… もっと触れてたい…近ずきたい… 今日こそはちゃんと…思いを伝えようか… 「っ…、咲也…っ」 「柊…っ」 「帰りたくないよ…」 「俺も…帰したくない…」 溢れ出してしまったこの感情はもう止めることは出来なくて、どちらともなく自然と唇が重なり、そして夢中で求めあった。 「ん…っ、はぁっ、柊っ」 「はぁっ…咲也ぁっ」 「好き…」 「俺も…俺もお前が好き…」
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