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思っていたのと少し違うけど
* * *
「保健室ですることじゃ無いよな」
俺が言うと穂積はふき出して笑った。
思ったよりも軽いノリのやつなのかと思うと同時に、そんな軽いノリで流していい話なのだろうかとも思う。
「じゃあ、学校じゃなければするのか?」
そう言ってから、穂積俺に顔を近づけると俺にキスをした。
唇に唇を触れさせただけの様なキスだったけれど、確かに感じた熱に驚いていると、穂積は「俺キスするの初めて」と爆弾発言をした。
「あー、その顔は粟田は初めてじゃない感じだ」
ニヤリと穂積が笑う。
「名前……」
「だから、ずっと知ってるよって言っただろ」
体を起こしながら穂積が言った。
「知ってるって何を?」
「ずっと僕の寝顔を眺めていたこと」
「は……?」
は? だ。気が付いていたって、なんだそれ。
ジワジワと顔が赤くなっていくのが分かる。
それは羞恥からで「えー、キスした時その顔をしてほしかったな」と言われた。
そんな無茶なと思いながら穂積を見ると彼の耳がほんのり赤い事に気が付く。
さっきみたいにまた、心臓がバクバクと音をたて始める。
彼が冗談を言っているとは思えなかった。
「たぬき寝入りしてたって事か」
「まあ、そんなところ」
俺が何度も何度も穂積の寝顔を見ていたことに本人は気が付いていたらしい。
「気持ち悪くないのか?」
最初に浮かんだのはそれだった。
自分の寝顔を熱心に見られてた時に思うのは気持ち悪いだろう。
「僕がキスした時気持ち悪かった?」
質問に質問で返すなと言いたかったけれど、何となく言いたいことは分かった。
多分同じだよと言いたいのだろう。
「『学校じゃなければ』したかもな」
先ほどの穂積の言葉を借りて言葉を返す。
「なんか、粟田って想像してた感じと違うね」
面白そうに穂積が言った。
「学校でもしそうなタイプに見えたか?」
「まあ、実際しようとしてたし」
そう言われてしまうと何も言い返せない。
「続きする?」
「だから、学校ではしません!」
「なんで敬語なの」
穂積が笑う。
「連絡先教えてくれるか」
「勿論」
「じゃあ、放課後連絡する」
穂積が起き上がる。
「じゃあその時に続きだ」
「なんでそれにこだわるんだよ」
穂積がもう一度、面白そうに笑った。
「さて、なんでだろうね」
彼が眠り姫よろしく眠っている時にはこんな人だとは思わなかった。
だけど、動いて笑って、それから俺を認識している穂積に体の内側があったかくなるような感覚がした。
穂積のスマートフォンのアラームが鳴った。
「また放課後に」
保健室の君は立ち上がるとそう言った。
保健室以外で初めて君に会ったらちゃんと自己紹介をしよう。
それから、なんでずっと穂積を見ていたかの話をしようと思う。
「ああ」
俺がそう答えると穂積は嬉しそうに目を細めて笑った。
了
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