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その人と俺の関係
その人ときちんとあったことは多分無い。
勝手に俺が何度も彼に会ったと思っているだけで、きっと彼は俺の事は知らないだろう。
彼と会う。いや、彼を見るのはいつも決まって保健室で、彼はいつも長い睫毛で縁取られている筈の瞳を閉じている。
貧血になりやすい体質なのだと誰かが噂しているのを聞いたことがあった。
それが本当なのかは分からないけれど、彼はいつも若干青白くも見える顔色で保健室のベッドに横たわっている。
保健委員を押し付けられてよかったと思った。
ぐったりと眠るその人を見つめるのが、もはや習慣になってしまっている。
彼に触れた事は無い。
俺が触れた所為で彼が起きてしまったらと思うからだ。
彼を一人眺めている貴重な時間が減ってしまうことも、彼に触れたことをどういい訳したらいいのかも俺には分からない。
養護教諭は今日もいない。
最初からあまりやる気があるようには見えないあの先生はいつも昼休みは保健委員に任せて保健室には寄り付きもしない。
静かな保健室でまるでそれが仕事かの様な顔をして、彼のベッドの横に椅子をおいて彼を見下ろしている。
彼が起きるときにそこにいたことは無い。
多分午後の授業が始まる寸前にスマホのアラームが鳴る様になっている。
一度、教室に戻るのが少し遅れた時、出ようとした保健室の彼のベッドの方で電子音が鳴っているのを聞いた。
だから、タイムリミットはお昼休みの終わる十分前まで。
そう決めて彼の顔を眺めている。
これを恋と呼ぶのかは俺自身よく分からない。
目覚めている彼と話をするイメージ自体わかないので、いまいち色々と想像できない。
想像しようとして無いだけかもしれないけれど、彼とのあの時間以外の事はあまり考えられないのだ。
友達もいるし、別に恋の話も、下ネタも言う。
ただ、そういうものと彼が繋がっているのかは正直俺にも分からない。
それをつまびらかにしたところで、きっと俺も俺に眺められている彼もとても困るだけだろうと思う。
「なあ、保健委員って暇じゃねえの?」
「いやあ、けが人とかもたまに来るし」
「よくそんな面倒な委員会引き受けたよな」
クラスメイトにそう言われる。
うちのクラスは女子の方が少ないので保健委員は俺一人だ。
昔は保健室にだけクーラーがあったらしいが、今は教室にも普通にクーラーがある。
当番中友達は呼んではいけないし、別にやる事は無い。
ひとりでスマホをいじれる位しか多分利点が無い。
そんな俺が保健委員を続けてる理由は多分一つだ。
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