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僕は知っている※視点変更
* * *
僕はよく失神をする。
血管迷走神経反射というらしいそれは全校集会の時とかに不意に僕から意識を奪っていく。
友達は「漫画に出てくる女の子みたいだな」なんて言って笑うけれど、多分そんなものとは全然違う。
よく顔色が酷く悪くなって時々倒れる事のどこにもときめく要素はないし、別に楽しくはない。
唯一マシなのはこの病気が別に命に係わるものじゃない事と、失神しても割とすぐに意識が戻る点だ。
だから、具合が悪くなって保健室のベッドを占領していても、すぐに意識は覚醒していた。
その時にすぐ近くで俺の事を見つめている人間にはすぐに気が付いた。
寝たふりをしながら、ちらりと薄目でその人を見た。
チャラチャラしていて真面目なタイプとは程遠いと思った。
その人が保健委員で彼がいるのは当番の日だけ、と気が付いたのはそれから少し経ってからだった。
隣のクラスのその人は友達も多いタイプだし、あんな風に昼休みの保健室で一人俺の事をじいっと見つめている様なタイプには見えない。
最初はそんなに具合の悪そうな顔をしているだろうかなんて思った。
事実顔色は酷く悪いだろう。
けれど、それが何回も何回も続くうち、あれ? と不思議に思った。
僕が保健室に横たわっていると毎回といった風に僕の事を見てるのだ。
ただ、けが人が来たりする時はそちらの方に行って、まるで僕の事は知らないみたいに朗らかにけが人に接していた。
だからこそ、何故僕の事をそんなにじいっと見つめるのかが分からなかった。
僕の事好きなんじゃないのか? なんていう気持ちはわき上がっては来なかった。
僕を見つめる目はなんていうか、そんな感じじゃない。
クラスメイトの女子が好きな人の話をしている時、友人が彼女について話している時、こんな表情をしてはいなかった。
どんな気持ちが乗せられているのかよく分からない顔だ。そう思った。
それに気が付いてしまうと、覚醒してしまっても目を開くことはできなかった。
目を開いた僕に彼が何を言うのか、分からなかったからだ。
少し怖かったのかもしれない。
一度午後の授業を知らせるためにアラーム近くまで彼が保健室を後にしなかったことがある。
音が鳴った次の瞬間。慌てて保健室の扉を乱暴に閉じる音を聞いて、やっぱり彼は僕に気が付かれていると知られたくないのだと思った。
ただ、僕がそのたぬき寝入りしている時間が存外好きだという事だけは確かだった。
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