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2020年1月
年末年始はどこかふわふわとした気分ですごした。いっしょにスノボにいった二人には、根掘り葉掘り聞かれたけれど、そもそもデートしたのも三回だけだし、聞かせられる話は多くはない。
ただ、ゆるふわあざと女に関しては、二人とも大笑いしながら、要経過観察といわれてしまった。
玲奈としては、あまり森の周りをうろつかれるのは目障りなのだが、彼が振り切るからだいじょうぶ、というのを信じるしかない。
そういうと、まあまあ、こんなにおもしろいネタは、そうそうないんだから、楽しもうよ。と、イベントあつかいされてしまった。
実家では例年通り、家族で初詣に行ったり、地元の友だちと会ったりしてすごした。玲奈には二歳下の弟がいるのだが、その弟に彼女ができていた。おなじ自動車メーカーに勤める後輩らしい。
「結婚考えているんだよね」
わざわざ玲奈がいるときに、家に連れてきたのだから本気なんだろう。
「いいんじゃない。いい子だし」
「先に結婚してもいいの?」
「どうぞ」
「あれ、余裕だな。そういう人いるんだ」
「うるさいな」
東京にもどったらその足で初めてのお泊りが待っているのだ。気恥ずかしくて肯定しづらかった。
母親にもいいにくくて、結局いわないでしまった。
(ちょっと落ち着いてからいおう)
すくなくとも、森のことを考えただけで、足元も頭もふわふわすることがなくなってからにしよう、と思った。
三日の夕方、帰省客でごった返す東京駅で、玲奈は森を待っていた。新幹線の改札を出たところで、柱に寄りかかりながら、ツイッターやインスタをチェックしている。
弁当でも買っておこうかとも思ったのだが、この人混みの中を移動するのに尻込みをしてしまった。それにキャリーを引きながら弁当の袋をがさがさと持ち歩くのもいやだった。
(マンションのちかくのコンビニでいいか。味気ないけども)
などと思っていると、ラインの着信が鳴った。
「いま、改札出たけどどこにいる?」
玲奈は森の姿を探したが、人が多くてなかなか見つけられない。うろうろしていると、人の流れをかき分けてやってくる森と目があった。
「ただいま。おかえり」
空いている手をさしだしながら、森がいった。
「どっち?」
玲奈は笑いながらその手を受け止める。
「どっちもだよ。ひさしぶりだね」
「うん、ひさしぶり」
「すごい人出だね。とりあえず、ここ出ようか」
そのまま手をつないで、駅の外にむかう。途中、売店の前で玲奈は夕食どうするか聞いてみた。
「近所のスーパーかコンビニで買おう。荷物が多くなると、電車に乗るのたいへんだから」
「ちょっと味気ないけどそれでもいいなら」
「ぜんぜんいいよ。むしろちょっとジャンキーなのが食べたい。あと、すこし酒があるといいな」
「じゃあ、帰り道のコンビニで」
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