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2019年12月
十二月のはじめ、玲奈は同期の古田真紀から合コンに誘われた。同じく同期の八木まりえも誘って、三対三らしい。この二人とはなんとなく気が合って、よく飲みにも行く仲だ。
真紀の大学の同級生が相手方だ。いまでもたまに連絡を取ることがあって、そのときの流れで同僚を誘って会おうとなったらしい。相手方も同期なのだそうだ。
「ということは、全員タメってことだね」
と、玲奈が聞くと
「そうだね。年上がよかった?」
と、真紀がいう。
「いえ、とくにこだわりはないです」
「じゃあ、きまり。大手商社勤務でちゃんとした人だからだいじょうぶよ」
大手商社勤務だからだいじょうぶなのか、それとも知った同級生だからだいじょうぶなのか。真紀を信用して、後者だと思うことにする。
真紀にしてもまりえにしても、男の前で態度を変えるようなタイプではない。だからこそ、気持ちよくつるんでいる。
玲奈はあざとい女が苦手だ。あの手この手を使って、人目を自分に引き付けるのに、余念がない。
とくに合コンとなると、ねらった男はかならずオトす、といってはばからない。暗にあんたたちは手を出すなと牽制しているのだ。
そうなると、あちこちがぎすぎすしはじめて、居心地が悪くてしかたがない。料理すら味気なくなって、ただ時間のすぎるのを待つばかりだ。
玲奈はひとり蚊帳の外で、さまざまな思惑のこもった、目に見えない矢印が飛びかうのを眺めてすごす。
そしてふしぎなのは、あざと女にねらわれた男だ。なぜあのみえみえのくねくねのわざとらしい上目づかいに、鼻の下をのばしているのだろう。
いくら見た目がよくても、その時点で玲奈の中ではその男はアウトになるのだ。
(だらしない……)
と、思ってしまう。
男から見ると、あれがかわいいのだろうか。
だとしたら、自分には合コンでの出会いは永遠にないな、と思う。
玲奈は自分を分析してみる。いわゆるゆるふわ系のかわいいタイプではない。どちらかというと、きりっとした顔つきだ。目つきがきついと、たまにいわれる。自分ではそんなつもりはないし、きつく見えないようにメイクも気をつかっている。背も高いほうだし、靴のサイズにいたっては、二十四・五センチもある。かわいいの範疇からかなりはずれている。
いままで、何人かと付き合ってきたから、あまりかわいげのない自分でも、好いてくれる人は一定数いるのだとは思う。
会社の飲み会でも、そういう女が一人でもいると、そいつが中心になり、そこに入れない自分は疎外感を味わうのだ。なんともいたたまれない。二次会に行くことはめったになく、気の合う同僚、二、三人で飲みなおすのがもっぱらだ。
もとから、合コンで彼氏を探そうとは思っていない。
前の彼と別れてもうすぐ一年になる。理由はよくわからない。仕事が忙しいとか、用事があるとかいって、会うのを避けられた。たぶん浮気してるなと思ったが、面倒くさくて放置していた。
そんなものだった。たぶんそれほど好きでもなかったんだろう。
それきりだ。向こうからも連絡はなかった。
たぶん浮気相手のゆるふわ女となかよくしているんだろう。相手がゆるふわかどうかは知らないけれど。いまさら、会いたいと連絡したら、どんな顔をするんだろうか。それはそれでおもしろいかもしれない。
今年は二十七才になった。三十才までに子供を産もうと思ったら、そろそろ本気で結婚を考えなくてはいけない、とは思っている。
婚活サイトに登録しようかなぁ、と漠然と考えていた。
「よさそうな人がいたらラッキーだよね」
「そうだね」
楽しく飲めたらいいな。そんなつもりだった。
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