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水曜日、ミーティングルームで玲奈は真紀とまりえと三人で昼ごはんを食べていた。結婚の話はいつしようか、まよっていたのだが、親にも話は通したし、そろそろいいだろうと思ったのだ。
「ええとね」
すこし改まった様子の玲奈に、二人はなにごとかと顔をあげた。
「ええと。結婚しようという話になりまして」
「なにい? すこし早すぎないか?」
真紀が目をむいた。予想通りの反応だ。
「だよねー。あたしも最初はそう思ったんだけど、はじめからそのつもりだったと、当然のようにいわれてね」
「なんだ、のろけか。コノヤロー」
まりえがツッコむ。
「そういうわけじゃないのー」
「そうかー。森さんは一目ぼれだったかー」
そういうまりえに、真紀はいい返す。
「いやいや、あれはおたがい一目ぼれだったね。コトって音がしたもん」
「なんの音?」
「いやだねぇ。恋に落ちる音だよう」
「ああ、そういえば聞こえた気がする」
まりえまでいい出す始末だ。
「そんな音するわけないじゃん」
玲奈の顔が赤くなった。見通されていたとはなんともはずかしい。
「森さんも、菅原、岡田両氏にツッコまれてるだろうね」
「だろうねぇ。まあ、そういうことなら時間の問題ではないんだろうね。よかったじゃん。おめでとうございます」
「うん、おめでとう」
真紀とまりえは、感慨深げにうんうんとうなづいた。
「ところで。式はいつごろの予定で?」
真紀が聞いてくる。
「予定はまだ、ぜんぜん。ゴールデンウイークに実家に行ってあいさつしてくるの」
「そっか。美男美女で見栄えのいい結婚式になるね」
「やだぁ。美男はともかく、美女って」
「常々思ってるんだけど、玲奈は自覚がないよね」
「ないない。この結婚に何人の男がどん底にたたき落されるのか、ぜんぜんわかってない」
二人の物いいに、玲奈の頭にはてなマークがうかぶ。
「あなたね、そこそこモテるんですよ。見た目もまあまあいいし、へんに媚びないし、仕事もできるしね」
真紀にいわれて、玲奈の目が点になった。
「え、あたし?」
「そうよー。営業の坂本さんなんて、しょっちゅう話しかけてきたでしょ」
「……そういえば」
玲奈は企画開発なので、営業とはあまり接点がない。それなのに顔をあわせることが多かった。玲奈はただの偶然だと思っていたのだが。
「ほかにも何人かいるよね。おたがい牽制しあって決定打が打てないうちに、森さんにさらわれちゃったね」
「……ぜんぜん気づかなかった」
「だから、自覚がないっていってるの。まあ、大手商社勤務のイケメンじゃだれも文句いえないって」
「で、プロポーズはどのように?」
まりえが聞いた。やっぱり聞くか。
「はあ、それがね」
玲奈は正直に話した。
真紀とまりえには、イスから転げ落ちるほど大笑いされた。
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