2020年3月

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 会社の帰り、食料品を買おうと、近所のスーパーに寄った。そこで玲奈はカゴを持ったまま、ぼうぜんと立っていた。 「スカスカだ……」  陳列棚はカラになっていた。どうやら、緊急事態宣言が出されると聞いて、人々は買いだめに走ったらしい。  玲奈は完全に出遅れたのだ。 (あのときみたいだ……)  この光景は見たことがある。震災後のスーパーを思い出した。高速道路が通行止めになり、一般道路もひどい渋滞になって、物流が滞ったのだ。  入荷がない。したとしても、ごく少数だった。それを人々は奪い合うようにして買っていた。そんな状態が二、三週間つづいただろうか。  あのとき、母はどうやって食料を調達していたのだろう。  玲奈はカラの陳列棚を写真に収めると、カゴを戻して外に出た。コンビニによって弁当やカップラーメンを買った。コンビニはふつうに営業している。陳列棚にもいつもどおりたくさんの商品がならんでいた。 (コンビニ、すごいな)  ありがたさが身に染みる。  部屋に帰って、母に写真を送ってから、電話をした。 「おかあさん、スーパーがからっぽだ」 「なんで?」 「たぶん、みんな買いだめしたんだと思う」 「そんなに? ひどいね」 「パンもラーメンもなんにもなかった」 「コンビニは?」 「コンビニにはふつうにあった」 「あー、よかったね。焦らなくてもだいじょうぶだよ」 「うん」 「トラックは走ってるんでしょ。そしたら明日にはまた入荷するじゃない」 「あっ、そうだね。でも水買わなきゃ。あと一本しかない」 「水、出るんでしょ」 「あっ、そうだった。足りるか。乾電池いるかな」 「電気、通ってるんでしょ」 「あっ、そうだった。非常食、買っておいたほうがいいかな」 「落ち着きなさいよ。ライフラインは生きてるし、トラックも走ってるんだから。あわてないで。震災とちがうよ」  母にいわれて、玲奈は自分がパニックにおちいっていたことにはじめて気づいた。 「そっか。そうだね。ちょっとあわてちゃった」 「とりあえずの食料は、コンビニで買えるでしょ」 「うん」 「じゃあ、だいじょうぶ」 「うん。ありがとう」  玲奈はやっと落ち着きをとりもどして、電話を切った。
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