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2020年4月
外に出ることもできなくなってしまったので、悠人は休日を玲奈のマンションですごすことが多くなった。金曜日に仕事を終えてから来て、日曜日の夕方に帰る。
出かけるのは、近所の商店街だけになってしまった。
「デートに出かけたかったのにな」
悠人がさも残念そうにいう。
「そうねー。ごはんも食べにいけないもんね」
「ここでイチャイチャしてるのもいいんだけどね」
「やだ! もうっ!」
付き合い始めというのが幸いしているのか、二人でいればそれだけで楽しい。これも吊り橋効果というのか。
サブスクで映画や海外ドラマを見たり、まんがを読んだり。
いままであまりまんがを読まなかった悠人は、ついに「キングダム」を読破してしまった。
「いいなー。かっこいいなー。漢だなー」
すっかりハマったらしい悠人は二巡目を読んでいる。
「推しキャラはだれ?」
玲奈に聞いてきた。
「バジオウ」
「くっ。勝てねえ」
「誰なら勝てると?」
「誰にも勝てないです。ごめんなさい。現代人よわ」
「現代は戦い方がちがうんでしょうよ。あなたはPCやらスマホやらを駆使して、情報戦を乗り切りなさいな」
「ソウデスネ」
そういう玲奈は、「三月のライオン」を読んでいる。ときどき、ズビと鼻をすすりながら、ティッシュで目をぬぐう。
「それはどういうまんが?」
気になるらしく、悠人は聞いてくる。
「読んでみてよ。口では説明できない。心がふるえるまんがだよ」
「感動ものかー」
「そんな簡単なひとことでは表わせないのよ。きみも読んで、ぜひ心をふるわせたまえ」
「わかりました」
世間は緊迫していたけれど、まだまだのほほんとしていた二人に、最初の困難が降りかかった。
緊急事態宣言。
東京から出られなくなってしまった。
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