2020年4月

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「これはなにかの陰謀だ。俺たちの結婚を阻止しようとしているんだ」 「坂本さんですかねぇ」  玲奈の口がすべった。しまったと思ったときはもうおそかった。 「……坂本さんてだれ」 「あっ、なんでもない」  悠人はスマホを持っていた玲奈の手を、ぐっとつかむと、顔をのぞきこんだ。 「だれ?」 「あー、営業の人?」  玲奈の目はせわしなく泳いだ。 「なんで、営業の坂本さんが陰謀を(くわだ)てるの?」  ミーティングルームでの会話が漏れたらしく、その日のうちに、玲奈が結婚するらしいと噂がひろまった。小さな声で話していたつもりだったのだが、耳ざとく聞きつけられたのかもしれない。  帰り際、エントランスを出たところで、坂本につかまった。待ち伏せしていたのだろう。 「ちょっと」  と、よばれて人目につかない裏道に連れていかれた。怖かったが、いざとなったらダッシュで逃げればいいかと思った。会社のエントランスに飛びこめばなんとかなるだろう。 「結婚するってほんと?」 「まだ本決まりではないです」 「でも、するんだ」 「まあ、そうですね」 「なんで」  そんなのきかれても困る。自分たちのイチャイチャまじりの気持を、なんでこの人に話さなければいけないのだ。 「なんでって…… 話す必要あります?」 「いつから? 彼氏いないっていってたよね」  話す気のない玲奈を無視して、坂本は強引につづけた。 「えー、まあ、最近の話なんで」 「最近? 最近でもう結婚するの? どんなやつ? 悪いやつにだまされてるんじゃないの? そんなんだったら、俺だって……」  一歩詰め寄られて、さすがに玲奈もムカッときた。 「なんでそんなこといわれなきゃいけないんですか。俺だってって、なんです? わたし、あなたに思わせぶりなこといいました? いってませんよね。あなただって、わたしになにもいってませんよね! 関係ない人に、わたしの結婚にとやかくいわれる筋合い、ないですよ!」  一気にまくし立ててから、ハッとした。関係ないといわれた坂本の顔は、みるみる蒼白になり表情が消えてしまった。肩が落ちて体全体がシューっとしぼんだ。 「失礼します」  あわててそういうと玲奈は(きびす)を返して、小走りに駅にむかった。  自分は悪くないよな、と何度も自問自答した。坂本が自分に気があるらしいと聞いたのは、きょうの昼だ。気づかないのが悪いといわれれば、返す言葉もないが、そもそも坂本が好意をほのめかすようなこともなかったはずだ。  やっぱり自分は悪くないはずだ。  後味が悪い。  電車に揺られながら、真紀とまりえにラインで今の出来事を簡単に伝えた。 「気にすんな。ちゃんといわなかった坂本さんが悪いんだから」 「そうそう、自業自得よ」  そうレスはもらったけれど、気は晴れなかった。  玲奈はそういうことがあったのだと、悠人に伝えた。 「ふーん。そのあとは?」 「話しかけてこなくなった。あいさつはするけれど」 「あきらめたなら、それでいい。ほかにもありそうだな。玲奈モテそう」 「それね。真紀とまりえもいうんだけど、ぜんぜんわかんないんだよね」 「うわー。無自覚かあ。タチわる!」 「ひどい! だってわかんないものはわかんないもの。みんな悠人君みたいにはっきりいってくれたらいいのに」 「ははっ。おかげで玲奈は俺の彼女になったわけだし、きみの会社のもじもじ君たちには感謝しよう」 「それはそれでひどいいい方ね」
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