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「新手の敵があらわれました」
神妙な面持ちで悠人がいった。
「東京アラートですね」
「そうです。また行けなくなりました」
「残念です。来月になったらだいじょうぶでしょうか」
「またしても様子見です」
収束に向かったかとみせかけて、感染はまた広がりはじめていた。期待ははかなくも打ち砕かれた。
金曜日の夜だ。悠人はやってきて開口一番にいったのだ。
「いつになったら行けるんだろうな。永遠に行けない気がしてきたよ」
「うう。なにかの呪いかな」
「そこでだ。テレビ電話はどうだろう。雰囲気だけでもつたわるんじゃないかな」
「おお。いいかもしれない」
なぜいままで、気づかなかったのか。悠人はさっそく実家に電話して、算段をつけていた。
「明日の午後でもいい?」
悠人に聞かれて、玲奈は首を縦にふった。なにを着よう。玲奈は思案する。会社に行くような服でいいだろうか。電話を切った悠人にたずねた。
「悠人君、明日はなに着るの?」
「えっ。普段着だけど」
リモートワークを終えてきた悠人は、自分の服を示した。
そっか。自分の親だもんな。
「あたしはそうはいかないわよ。ちゃんとした服を着ないと。だらしないと思われちゃう」
「部屋着はあれだけど、ちょっと出かけるような服でいいんじゃない?」
「さすがにジャスは着ないよー」
そういって、玲奈はクローゼットをあさりはじめた。
「ん?」
悠人から疑問の声が出た。
「ん?」
「なんていった?」
「あっ!」
「ジャス?」
「あー、へへ。ジャージです」
「ジャス?」
もう、ごまかせない。
「……うん、宮城ではジャージをジャスというんだよ」
「はじめて聞いた」
「非常に局地的なようです」
「そうなんだ」
悠人は目を丸くした。
「はじめ、全国共通だと思ってたから、びっくりしたのよね」
「はじめて聞いた方もびっくりする」
「だってさー、子どものころからそういってたから、今更違うっていわれてもつい出ちゃうよね」
「それはしょうがないか。ひとつ賢くなったよ」
「ローカルミニ知識よね」
はたして、ジャスを覚えて何かの役に立つのかな、と玲奈は疑問に思ったのだった。
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