2020年6月

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「新手の敵があらわれました」  神妙な面持ちで悠人がいった。 「東京アラートですね」 「そうです。また行けなくなりました」 「残念です。来月になったらだいじょうぶでしょうか」 「またしても様子見です」  収束に向かったかとみせかけて、感染はまた広がりはじめていた。期待ははかなくも打ち砕かれた。  金曜日の夜だ。悠人はやってきて開口一番にいったのだ。 「いつになったら行けるんだろうな。永遠に行けない気がしてきたよ」 「うう。なにかの呪いかな」 「そこでだ。テレビ電話はどうだろう。雰囲気だけでもつたわるんじゃないかな」 「おお。いいかもしれない」  なぜいままで、気づかなかったのか。悠人はさっそく実家に電話して、算段をつけていた。 「明日の午後でもいい?」  悠人に聞かれて、玲奈は首を縦にふった。なにを着よう。玲奈は思案する。会社に行くような服でいいだろうか。電話を切った悠人にたずねた。 「悠人君、明日はなに着るの?」 「えっ。普段着だけど」  リモートワークを終えてきた悠人は、自分の服を示した。  そっか。自分の親だもんな。 「あたしはそうはいかないわよ。ちゃんとした服を着ないと。だらしないと思われちゃう」 「部屋着はあれだけど、ちょっと出かけるような服でいいんじゃない?」 「さすがにジャスは着ないよー」  そういって、玲奈はクローゼットをあさりはじめた。 「ん?」  悠人から疑問の声が出た。 「ん?」 「なんていった?」 「あっ!」 「ジャス?」 「あー、へへ。ジャージです」 「ジャス?」  もう、ごまかせない。 「……うん、宮城ではジャージをジャスというんだよ」 「はじめて聞いた」 「非常に局地的なようです」 「そうなんだ」  悠人は目を丸くした。 「はじめ、全国共通だと思ってたから、びっくりしたのよね」 「はじめて聞いた方もびっくりする」 「だってさー、子どものころからそういってたから、今更違うっていわれてもつい出ちゃうよね」 「それはしょうがないか。ひとつ賢くなったよ」 「ローカルミニ知識よね」  はたして、ジャスを覚えて何かの役に立つのかな、と玲奈は疑問に思ったのだった。
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