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2020年7月
月が替わっても東京から地方への移動は、ためらいがあった。あいかわらず感染者への誹謗中傷は続いているといい、もし自分が保菌者だったらと思うと、踏み切れなかった。
「じゃあ、お盆かな。お盆だったら人の移動も多くなるだろうから、行っても目立たないよ」
悠人がいう。
「そうねえ。なんだかんだで三か月も伸びちゃうね」
「もう入籍しちゃおうか」
「あいさつ飛ばして?」
「それはあとでもよくない?」
「うーん。やっぱり直接会いたいな」
玲奈の両親とも、テレビ電話での会談は済ませていた。悠人も玲奈の両親も、おたがいの為人はすこしはわかったようだった。
「テレビ電話じゃ済まない?」
「うーん」
玲奈はだまりこんでしまった。直接の面談にこだわるには理由がある。
「べつに悠人君のご両親に不満があるんじゃないのよ」
「じゃあ、なにが気になるの?」
「高校の同級生がね。千葉でナースしてるんだけど」
「スノボの?」
「別の友だち」
「ナース多いな」
「うん、理系コースだったから、同級生はほぼナースよ」
「えっ、玲奈理系だったの?」
「そうよ。農学系だったから」
前に聞いたとき、食品なんとか学科といっていたので、てっきり調理とか栄養とかの学科だと悠人は思いこんでいたのだ。
じつは、悠人は玲奈に対してひとつコンプレックスを抱いていた。
玲奈の大学は、宮城の公立大学だ。ということは第一志望に合格したということだ。
たいして悠人は、第一志望の国立大学に落ちて、滑り止めの私立大学に入学したのだ。誰もが知る有名大学で、偏差値も高い大学だから卑屈になることはまったくないし、悠人も満足していた。
それとは別に、「第一志望に落ちた」という事実は決して消えはしないのだ。
それから悠人はこっそり玲奈の通っていた高校を検索してみたのだ。宮城県でもトップクラスの進学校だった。
賢い人だとは思っていたけれど、すごく優秀な人なのだと思い知ったのだ。
「玲奈はT大でも入れたんじゃないの?」
「あー。落ちたねぇ。T大農学部。」
「えっ? そうなの? 俺も落ちたんだけど。T大経済学部。」
「まじー? 落ちた同士。ウケる。」
「あれ? じゃあ、M大って後期試験で合格したの?」
「そうだよ。」
やっぱりすごく優秀じゃないか。そういう悠人にむかって玲奈は、落ちたんだから同じだよというのだった。
でもな、と悠人は思う。後期試験を早々にあきらめて私大に入学を決めてしまったのと、果敢に後期試験に臨んだのでは、決定的な違いがある。
自分は怖気づいて逃げたのだと自覚があるのだ。一流の私大に受かってたら、あたしもそっちをとるよ、と玲奈はいったけれど。
今さら考えてもしょうがないことなのだと、悠人はその感情にふたをした。
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