2020年7月

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   話がそれてしまった。 「で、その同級生がどうしたの?」 「彼氏ができて、半年くらいで同棲しようってなって」 「うん」 「したのはいいんだけど、三か月くらいで彼氏実家に帰っちゃって」 「なんで」 「それもいまいちはっきりしなくて。たぶん彼女が入院病棟のナースだから、勤務時間が不定期だからとか、仕事の話がハードだとか」 「そんなのわかってて同棲したんじゃないのか」 「そうよねぇ」 「それで別れたの?」 「別れたんならよかったんだけどね」 「別れてないの?」  ややこしそうな話だと、悠人の顔に書いてある。 「その彼氏の母親が出てきて」 「えっ? 母親?」 「そう、母親。木更津の元ヤン」 「なにそれー!」  悠人は思わぬパワーワードにのけぞった。 「その木更津の元ヤンが、慰謝料払えといってきて」 「はあ? なぜ」 「なんか息子が精神的苦痛を味わったんだって」 「意味わかんない」 「でしょ? マンション借りるときのお金は彼女が出してるのよ」 「えー、折半じゃないの?」 「彼女のほうが稼いでるからって」 「うわー、情けないなぁ。あっ、もしかしてマザコン?」 「そうね。彼氏は連絡取れなくなって。元ヤンから一方的に電話くるだけで」 「やばー。どうしたの?」 「なんか、元ヤンて大声で威嚇すればいうこと聞くと思ってるみたいで」 「恫喝じゃん」 「そう、それで自分ではどうしようもなくなって。パラリーガルやってる同級生に相談して」 「人材豊富だな! 同級生!」 「彼女が彼氏とのやり取りを記録してたのと、元ヤンの電話を録音してたから、被害者はこっちだっていってもらって」 「ああ、してたんだ。予感があったんだな」 「弁護士事務所が出てきたら、むこうビビったみたい。勝手に弁護士だと思いこんで」 「なんか離婚みたいだな」 「そうよね。でもうまくいいくるめて、別れたの。もう連絡しないって誓約付きで」 「……よかったね」 「うん」 「なんの話だっけ」 「直接会いたいって話」 「ああ、そうだ。で、なんで?」 「もしかしたら、そういうこともあるのかな、と思って」 「うちの親は元ヤンではないよ」 「知ってる。うちの親も元ヤンじゃないわよ。ただ、できれば会いたいなと思ったの」 「なるほど。まあ、来月になったら行けるだろうしね。それからにしよう」 「うん、ありがとう」
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