2020年8月

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「元気?」  はあ?  突然きた元カレからのライン。  なんだ、今さら。ドルチェ&ガッパーナが香るのか。  既読にもしなかった。 「会いたいんだけど」  いよいよ流行りの歌を体現するらしい。無視していたら、一日二、三回のメッセージが三日続いた。ブロックしておけばよかった。  どうせ連絡はこないだろうと放置していたのがいけなかった。  というか、目にもつかないくらい、ずっと底の方に沈んでいて、覚えてもいなかったのだ。  うざいし、めんどくさい。が、うっかり手がすべって既読にしてしまった。とたんに電話がかかってきた。自宅にいるけども、仕事中だし。呼び出し音が長い。  切れよ。しつこいな。  延々と鳴る呼び出し音。  ちっ。舌打ちをしてスマホをとった。 「はい」  無機質な声で答える。 「……ひさしぶり」 「そうですね」 「……あのさ。一回会ってくれないかな」 「なぜ」 「ちゃんと話がしたくて」 「なんの話」  玲奈は淡々と返事をする。 「……いろいろと」 「こっちにはないけど」 「連絡しなかったのは悪かったよ。あやまるから、会ってくれよ」  ははーん。浮気相手のゆるふわあざと女に捨てられて、元サヤにもどろうって魂胆か。 「いやです。あたし、結婚するんで」  ひゅっと息をのむ音が聞こえたけれど、そのまま電話を切った。  これで引き下がらないだろうなと思った。結婚もでまかせだと思っているかもしれない。  突撃でもされたら、えらい迷惑だ。 (武器を用意したほうがいいかもしれない)  手を出されたときの対策が必要だ。  玲奈は机周りを探してみた。最初にカッターを手にとるが、刃物はまずいなと思い直した。持ち歩くのもまずいし、いざ行使してしまったら傷害罪になるかもしれない。正当防衛ってどこまで許されるのだろう。  そんなことになったら、結婚どころじゃない。    バッグに入って、危険じゃないもの。それでいて、ある程度抑止力のあるもの。  結局、シャープペンシルを手にした。手の甲にペン先を突きつけてみた。 (これでも刺されば痛いだろうし。刺さったところで、大したケガにもならないし)  そう思って、シャープペンシルをバッグの外ポケットに入れた。
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