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「元気?」
はあ?
突然きた元カレからのライン。
なんだ、今さら。ドルチェ&ガッパーナが香るのか。
既読にもしなかった。
「会いたいんだけど」
いよいよ流行りの歌を体現するらしい。無視していたら、一日二、三回のメッセージが三日続いた。ブロックしておけばよかった。
どうせ連絡はこないだろうと放置していたのがいけなかった。
というか、目にもつかないくらい、ずっと底の方に沈んでいて、覚えてもいなかったのだ。
うざいし、めんどくさい。が、うっかり手がすべって既読にしてしまった。とたんに電話がかかってきた。自宅にいるけども、仕事中だし。呼び出し音が長い。
切れよ。しつこいな。
延々と鳴る呼び出し音。
ちっ。舌打ちをしてスマホをとった。
「はい」
無機質な声で答える。
「……ひさしぶり」
「そうですね」
「……あのさ。一回会ってくれないかな」
「なぜ」
「ちゃんと話がしたくて」
「なんの話」
玲奈は淡々と返事をする。
「……いろいろと」
「こっちにはないけど」
「連絡しなかったのは悪かったよ。あやまるから、会ってくれよ」
ははーん。浮気相手のゆるふわあざと女に捨てられて、元サヤにもどろうって魂胆か。
「いやです。あたし、結婚するんで」
ひゅっと息をのむ音が聞こえたけれど、そのまま電話を切った。
これで引き下がらないだろうなと思った。結婚もでまかせだと思っているかもしれない。
突撃でもされたら、えらい迷惑だ。
(武器を用意したほうがいいかもしれない)
手を出されたときの対策が必要だ。
玲奈は机周りを探してみた。最初にカッターを手にとるが、刃物はまずいなと思い直した。持ち歩くのもまずいし、いざ行使してしまったら傷害罪になるかもしれない。正当防衛ってどこまで許されるのだろう。
そんなことになったら、結婚どころじゃない。
バッグに入って、危険じゃないもの。それでいて、ある程度抑止力のあるもの。
結局、シャープペンシルを手にした。手の甲にペン先を突きつけてみた。
(これでも刺されば痛いだろうし。刺さったところで、大したケガにもならないし)
そう思って、シャープペンシルをバッグの外ポケットに入れた。
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