163人が本棚に入れています
本棚に追加
「藤沢さんは、趣味はなんですか」
森が聞いてきた。ここで玲奈ちゃん、と呼ばれたら、その時点でチャラ男認定になってしまうのだが、この人が名字で呼んでくれてよかった。玲奈の中で、森という人はまっとうな人認定がおりた。
「走るのと、スノボですよ」
「あっ、俺も走るんですよ。マラソンとか出ます?」
「フルマラソンは二回でてます。どっちも完走しましたよ。五時間ちょっとかかりましたけど」
「上出来じゃないですか。俺は四時間半をきるのが目標です」
「やりますねぇ」
「機会があったら、いっしょに走りましょうよ」
会話がはずんでいたら、向かいにすわっていた岡田が割って入ってきた。向かいには、真紀、岡田、まりえの三人がすわっている。
「二人、出身どこ?なまりがおなじだけど」
「えっ、なまり?」
真紀もうなづく。
「わたしもそう思ってた」
自分ではわからないけれど、なまりというか、イントネーションがすこしちがうらしい。いままでにも、何回かいわれたことがある。
自分では隠しているつもりでも、なにかのはずみででるようだ。
「俺、福島ですよ」
「……ああ、わたし宮城です」
「……そっか。どっちもおなじようななまりだもんね」
森がいった。
「福島と宮城ってとなりだよね」
岡田がいう。みんな知ってるでしょうに、岩手、宮城、福島の位置は、と玲奈は思う。
「そう、伊達藩! 伊達政宗! 俺、伊達男なの!」
わっと、笑いがおこって、玲奈の胸に一瞬湧いた黒いモヤは払われた。そのまま、話題は次に進んだ。
さらっと空気をかえた。すごいなと思って、玲奈は森の顔をまじまじと見つめてしまった。森もこちらを向いた。目があうとにかっと笑った。
ドキッとしたのをかくすように、玲奈は曖昧に笑いかえして、ビールのグラスを手に取る。
(ヤバい。オチたかもしれない)
最初のコメントを投稿しよう!