2019年12月

3/16
前へ
/76ページ
次へ
「藤沢さんは、趣味はなんですか」  森が聞いてきた。ここで玲奈ちゃん、と呼ばれたら、その時点でチャラ男認定になってしまうのだが、この人が名字で呼んでくれてよかった。玲奈の中で、森という人はまっとうな人認定がおりた。 「走るのと、スノボですよ」 「あっ、俺も走るんですよ。マラソンとか出ます?」 「フルマラソンは二回でてます。どっちも完走しましたよ。五時間ちょっとかかりましたけど」 「上出来じゃないですか。俺は四時間半をきるのが目標です」 「やりますねぇ」 「機会があったら、いっしょに走りましょうよ」  会話がはずんでいたら、向かいにすわっていた岡田が割って入ってきた。向かいには、真紀、岡田、まりえの三人がすわっている。 「二人、出身どこ?なまりがおなじだけど」 「えっ、なまり?」  真紀もうなづく。 「わたしもそう思ってた」  自分ではわからないけれど、なまりというか、イントネーションがすこしちがうらしい。いままでにも、何回かいわれたことがある。  自分では隠しているつもりでも、なにかのはずみででるようだ。 「俺、福島ですよ」 「……ああ、わたし宮城です」 「……そっか。どっちもおなじようななまりだもんね」  森がいった。 「福島と宮城ってとなりだよね」  岡田がいう。みんな知ってるでしょうに、岩手、宮城、福島の位置は、と玲奈は思う。 「そう、伊達藩! 伊達政宗! 俺、伊達男なの!」  わっと、笑いがおこって、玲奈の胸に一瞬湧いた黒いモヤは払われた。そのまま、話題は次に進んだ。  さらっと空気をかえた。すごいなと思って、玲奈は森の顔をまじまじと見つめてしまった。森もこちらを向いた。目があうとにかっと笑った。  ドキッとしたのをかくすように、玲奈は曖昧に笑いかえして、ビールのグラスを手に取る。 (ヤバい。オチたかもしれない)
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加