46人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、花火が嫌いだ。
夏休み明け、クラスのみんなが自慢げに話していた海水浴もキャンプも、俺は一度たりとも連れて行ってもらったことはない。
ほんのささやかな庭先でのバーベキューですら、やりたいと言ったら怒られた。
「この忙しい最中に何がバーベキューだ!」
あの時の親父の顔は忘れない。
ちらりと俺に向けられた目は血走り、黒光りする汗ばんだ頬には、真っ黒い煤がこびりついていた。
風呂場へ向かう親父の背を見送り、俺は力いっぱい拳を握りしめた。
そうしないと、涙がこぼれてしまいそうだったから。
たったひとつで良かった。たったひとつでいいから、絵日記に描くエピソードが欲しかった。
ただ、それだけだったのに。
その時ほど、俺は自分の運命を呪ったことはない。
最初のコメントを投稿しよう!