花火なんて、やっぱり嫌いだ

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「ちょっと徹平(てっぺい)! いつまで寝てんの?」  この時期唯一の安住地帯である俺の部屋の戸が、乱暴に叩かれる。 「っせぇな」  首筋を汗が一筋伝うのを感じ、俺は枕元のリモコンに手を伸ばした。  電源ボタンを押してしばらくすると、年季の入ったエアコンが、ミシミシと音をさせながら、送風口を開いていく。同じく枕元にあるスマホを拾い上げると、時刻は十二時半になるところだった。 「暇なら少しは手伝いなさいよ! こっちは猫の手も借りたいくらい忙しいんだ! あんたみたいなのでも、いないよりはマシなんだからね!」  夏休みに入って二日目。まだ進路の定まっていない俺に対する母の扱いは、猫以下らしい。 「知るかよ」  手の甲で首の汗を拭うと、俺はのっそり身体を起こした。  花火業界ではそこそこ名の知れている、野々瀬(ののせ)煙火工業。俺はそこの次男坊だ。  常勤の従業員は十人ほどだが、書き入れ時のこの時期には、臨時でバイトやパートを大勢雇う。  さすがに火薬を扱うことはできないが、玉貼りといって火薬を詰めた花火玉に仕上げのクラフト紙を貼ったり、出来上がった花火玉を運んだりといった細々した仕事をしてもらう。  母が俺に手伝わせようとしているのは、そういった雑用的なことなのだ。
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