花火なんて、やっぱり嫌いだ

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 椿は、俺の初恋だった。  椿と初めて会ったのは、小学五年の夏だった。  当時高一だった二人に連れられ、地元の花火大会に行ったのがきっかけだった。  夏になると、親父に冷たくされたあの記憶が蘇り、部屋にこもってゲームばかりしていた俺を見かねて、兄貴が誘ってくれたのだ。  行きたくないと駄々をこねる俺に、椿は色とりどりの金平糖が沢山入った小さな透明のボトルをくれた。  俺の手をそっと掴み、手のひらにボトルを乗せると、「一緒に行ってくれる? 二人きりじゃ寂しいから」甘えるように、椿は口元をすぼめて見せた。  まるで迷子の子供みたいなその表情に、俺は思わず「しょうがねぇな」と言ってしまった。  祭り会場はすごく混んでいて、俺たちは、はぐれないよう椿を挟んで三人で手を繋いで歩いた。  次々と上がる花火の中に、椿がくれた金平糖みたいな花火があった。  花火をあんなに綺麗だと思ったのは初めてだった。そして、それを見上げる椿の横顔は、世界で一番美しかった。  それから毎年、三人で花火を見に行った。  あの頃はまだ、『彼女』というものがよくわかっていなくて、椿は、ただ単に兄貴の仲良しの友達なんだと思っていた。  ただの友達じゃない二人の関係を知った時、俺は無性に兄貴を殺してやりたくなった。  そしてそれは、椿への恋心に気付いた瞬間でもあったのだ。
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