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「それはそうと」
まだ少し赤みの残る頬を両手の甲で軽く押さえ、椿は俺の顔を覗き込んだ。
「今年は行くの? 花火」
「ああ? 行かねぇよ、そんなもん。ガキじゃあるまいし」
椿への気持ちに気付いてからというもの、俺は花火には行ってない。
「てっちゃんと最後に行ったのって、いつだっけ? 中一? 中二?」
「中二」
「そっかぁ。てことは……三年前?」
「なんじゃね?」
「ねぇ、初めて会った日のこと、覚えてる? 可愛かったなぁ、あの時のてっちゃん。迷子になるからって、必死で私の手、握りしめてたよね」
「ちげぇよ。椿が迷子にならねぇように、俺が掴んでやってたんだよ」
「へぇ。そうだんたんだ。知らなかった」
ありがと、と椿はまるで子供をあやすような口ぶりで言った。
なんだか小馬鹿にされてるようで気分が悪い。
「ごっそーさん」
蕎麦猪口と箸を持って立ち上がると、俺は仏頂面で流しに向かった。
「久しぶりに行かない? 二人で」
「えっ?」
危うくそうめんつゆをこぼしそうになり、俺は慌てて流しに蕎麦猪口を置くと振り返った。
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