花火なんて、やっぱり嫌いだ

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「だって恭介くん、忙しいでしょ? 一人で見てもつまんないし」  兄貴は家業を継ぐため、高校卒業後は親父について修行をしている。最近ようやく、『玉詰め』という花火玉に星や割薬(わりやく)を詰める作業をさせてもらえるようになったと喜んでいた。  星というのは、火や煙を出しながら燃える火薬の玉で、花火玉が上空で開いた時、丸く広がり色とりどりの花を咲かす。割薬というのは、その星を飛ばすための火薬だ。 「だからって、俺と行っても……」 「私と行ってもつまんない?」 「別に、そういうわけじゃ……」 「よし! じゃあ決まりね!」 「はっ? えっ? ちょっ」 「はいっ。じゃあ洗い物よろしく!」  そうめんの入っていた器を流し台に置き、俺の肩をポンとひとつ叩くと、「潔子さぁん! 次何すればいい?」椿は小走りで去って行った。 「おいっ! ちょっ! 待っ」  一人残され、呆然と立ちすくむ。 「っざけんなよ……」  久しぶりに触れられた椿の手の感触が、肩のあたりを熱く焦がす。堪らず叩かれたところを手のひらで包むと、痺れるような感覚が全身を駆け抜け、ぶるりと震えた。 「人の気も知らねぇで」  千切れるくらい力を込めて、俺は肩口を鷲掴んだ。
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