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3 特別じゃない
「ぃよっしゃあーー! あーがりっ!」
キアさんが、7のカード二枚を、テーブルの中央に叩きつけた。
「ええー!」
見事に7を引かれてしまった私は、思わず叫ぶ。
「あとは三人で頑張ってくれたまえ」
そしてキアさんはふんぞりかえる。
いやー、これはまずいよ。真理英は残り四枚、セイランさんは三枚。一方私はあと六枚! おまけにジョーカーは私の手の中! 負けてしまう!
ババ抜きっていうのは心理戦。自分の手札を相手に読ませず、自分は相手をガンガン読む!
さーて、真理英はどの札を引くのか。どうにかジョーカーを引いてもらいたいところ。
こうなったら禁断の手、“一枚飛び出させる”を使うしか……。
……あ、ごめん。ゲームが盛り上がったもんで、ついそっちのけにしちゃった。
さっきまでの、どんよりした空気はどこへやら。正直なところ、室内ゲームで仲良くなろう作戦は、想像以上の効果があった! キアさんはさっきの通り。セイランさんだって一回前に勝ったとき、ちょっと嬉しそうだったんだから。……たぶんね!
やっぱり、一緒に遊んで楽しいっていうのは、どこの世界でも共通認識なのかな?
「はい!」
ん? あれ、真理英いつのまにカード引いてる。しかもジョーカーじゃないやつ。
「揃いました」
え、マジで!?
続いて真理英のカードを引いたセイランさんも、ペアがそろう。でも私は揃わない~、カードは多いのになぜ~。
しかも真理英、全くジョーカー引かないな。そのうち私もカードを減らせたけれど、最後は真理英との一対一に追い込まれ、
「やった、あがりです!」
ババ抜きの醍醐味ともいえる延長戦にもつれ込むこともなく、私の手にはジョーカーが一枚……。
後から思い返せば敗因は、心理戦とか言っておきながら、途中で考えるのを止めちゃったことですね。
(あと、真理英は心理戦にめっぽう強いんだよ)
あ~、楽しかった!
私たちは、あらゆるゲームをやりつくした。
「久しぶりだったな。こういう遊び」
キアさんはそういった後、オレンジジュースを飲みほした。その横で、目を閉じながら深くうなずくセイランさん。
「私もです。とても楽しかったです。準備ありがとうございました、響」
「どういたしまして。楽しんでもらえて何より! 私も楽しかったよ」
うん。本当に良かった。少しだけど、キアさん、セイランさん、もちろん真理英とも、距離が縮まった気がする。
でも、やっぱり気になっちゃうのは、ゲームを始める前のキアさんの話。
それでも、私は伝えたい。そうだ、この気持ちを伝えるために、私と真理英は親睦会を開こうと思ったんだ。
姿勢を正して、私はキアさんとセイランさんに向かって言った。
「また、遊びましょう!」
ちょっと声が大きすぎたみたいで、真理英を含めて三人とも驚いてるみたいだった。
「また四人で、トランプとかやりましょう。あ、今度は、どこかに遊びにも行きたいです。
その……、お二人にとって、科学界は味がないというか、面白みに欠けるところかもしれません。
でも私、お二人に科学界の素敵なところ、いっぱい知ってもらいたいんです。
……今後、私たちはお二人からいろいろ教えてもらわなきゃいけないですし、私の方からも何かお返ししていきたいというか、その、お二人にとっては迷惑かもしれないんですけど……」
あー、うまくまとまらない!
「……私も同じです」
真理英……!
「私は、魔法界のこと、魔法のこと、ミス・ウィッチのこと、全部知りたいですし、それにあたって、お二人の力をお借りすることが多いと思います。ですから私も、お二人に科学界のことを知っていただきたいのです。科学界にも、心ときめくようなことが沢山あります。
一方的に与えられるのではなく、与え、受け取る。お二人とは、そのような双方的な関係を築きたいと思っています」
そこまで言ってこちらを向いた真理英と、目が合う。そして、私たちはキアさん、セイランさんのほうに向きなおる。
「「これからどうぞ、よろしくお願いします!」」
私たちは深くお辞儀。(あ、魔法界にお辞儀の文化はないか……?)
「……きみたちの指導をするのは、ミス・ウィッチのリーダーであるスピカさんから言われた、あたしたちの任務だ」
落ち着いたキアさんの声。私たちはゆっくり顔を上げる。
「だから、きみたちに魔法のことを教えるのは、ミス・ウィッチの先輩として当然のこと。引け目なんて感じる必要ない」
ここで言葉が一度切れる。キアさんは、ちらっとセイランさんの方を見た。セイランさんは、軽くうなずく。そして、キアさんは再び口を開く。
「……きみたちの言う通り、あたしたちもこの世界について知る必要があると感じた。だから、……こっちもこれから、いろいろ聞くかもしれない。
……まぁ、その、なんだ……」
キアさんは、こちらをまっすぐ見た。いや、もともと見ていたんだけど、でも……。
なんだか初めて、視線が合ったような気がした。
「これから、よろしく」
パンパカパーン!
頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
「「よろしくお願いしますっ!」」
思わず声に出したその言葉は、真理英とまるかぶり。思わず笑った。
「あ、でも、きみらのことをミス・ウィッチとして認めたわけじゃないからな? あんまり目立つような行動するなよ」
え~!?
まあ、仕方ないか。私たち、ひよっこどころか、卵の殻すら取れてないようなものだもんね。
「そこのところはもう、これから頑張りますから! きちんと役に立てるように!」
決意を述べたつもりだったんだけど、キアさんはなぜか渋い顔をして、
「……いや、そういうことじゃなくてさ」
え? 何か違ったかな?
「赤い」
わっ、びっくりした。セイランさん、いきなり鋭い声出すから……。
……って、なんで窓の外見てるんですか?
あ。
「空が赤いです……。これって」
真理英がつぶやく。
この光景……、間違いない、トウヤだ。
「……あのチビ、ほんとしつこいな。きっとこの空を見れば、ミス・ウィッチが駆けつけてくるとか思ってんだろ。
科学界で事を起こすのが、どれほど重大なことなのか、わからせてやる」
素早く立ち上がったキアさんとセイランさん。キアさんはこちらを見て、ちょっと渋い顔をして言う。
「……あいつが相手ならまあ良いか。
ほら行くぞ」
「あ、ハイ!」
私と真理英は後に続く。
学生会館の外に出た私たち。
外にいた生徒や先生たちは当然みんな、赤い空を見て騒いでいた。
「今日は、空が赤いだけで何も起こりませんね」
私が言うと、
「あいつらの目的はあくまでミス・ウィッチの殲滅。ミス・ウィッチさえおびき出せれば、なんでも良いんだよきっと。
それ以前にトウヤは、好き勝手動いてるだけだから。またいつ光線でも降ってくるかわからない」
理由のない、光線。それってある意味、とってもおっかないな……。
「とにかく、人目につかないところで準備を整えるよ」
キアさんが言って、私たちは学生会館の裏に回る。
「……よし、今のうちだ」
ポケットにさしていたペンを取り出すキアさん。首にかけていたペンダントを手に取るセイランさん。
それを見て、私は音楽プレーヤーを、真理英は懐中時計を持つ。
その手に力を込めた私たちを光が包み、止んだときにはミス・ウィッチの姿になっていた。
(この感覚にも、ほんのちょっと慣れてきたよね!)
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