1 ちょっと慣れた日常

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1 ちょっと慣れた日常

 やらかした。  前回、成り行きで魔法界に行くことになっちゃったもんだから、それまでのことを綺麗さっぱり忘れていたんだ。まあ、あの情報量詰め込まれたら、仕方ないよね。仕方ないって言ってほしい。  何はともあれ、ショッピング中だったんだよ、私たち。  男の子――トウヤによる騒動で別れたさらと凛に、連絡をすることをすっかり忘れていた私と真理英は、寮に帰るなり、二人からお𠮟りを受けた。 「どんだけ心配したと思ってんの!?」 「電話してもつながらないし、あの騒動でケガ人は出ていないってきいたけど、それでもすごく不安で……」  顔を真っ赤にしたさらと、涙でうるうるしている凛。 「ごめんなさい!」  私と真理英は平謝り。事情が事情だから、下手に話せないし……。 「……まあ、無事だったんなら良いよ。勢いで言いすぎた、ごめん。  夜遅いし、今日は疲れたし、寝よう」 「おやすみなさい。また明日ね」 「うん、迷惑かけて本当にごめん」 「今日のショッピング、楽しかったです。またよろしくお願いします」  私たちはそれぞれ、寮の部屋に戻る。 「ふう……」  今日起こった一連の出来事は、本当に全部今日のことだったのか疑わしい。でも、ショルダーバッグに入っている、“ミス・ウィッチ・マニュアル”と書かれた小冊子や、キアさんからもらったメモが、魔法界での出来事が本当だったことを証明している。  キアさん……、セイランさん……。 「……うまく、やっていけるかな、先輩たちと」 「……私たちが良く思われていないのは、確かなようです」  だよねえ……。  確かに、普段魔法なんて使わない私たちに、期待しろ、なんていうのは難しいだろうけど、そんな頭ごなしに否定しなくてもなぁ……。  ブツブツ文句を考えながら寝たら、翌日の日曜日の目覚めが、それはそれは悪かった。  それからはしばらく、平穏(へいおん)な日常が続いた。  クラスのみんなの顔と名前も一致してきて、中学校生活にも慣れてきたって感じ。勉強面……は置いておいていただいて。  あ、そうそう! 部活も決まったんだよね。  私は予定通り、軽音楽部に入ったんだ。人数は少ない、っていうか、バンドひとつがそのまま部活動として活動しているんだけど、先輩も同級生も面白そうな人たちばかりで、毎日楽しい。  真理英は、文芸部に入った。なんか、すごく真理英ぽい。でも、案外運動部も候補に入れていたみたいだよ。  寮生活にも慣れてきて、思いっきり楽しめるようになってきました! もうちょっとで、食堂のメニューを全制覇(ぜんせいは)できそうなんだよねー。  こんな感じで、かれこれ二週間くらいの時間を過ごしたんだけど……。 「今日も連絡ありませんね」  金曜日の放課後、寮でのんびりタイム。  スマホを見て、真理英がつぶやいた。  キアさんたちからもらったメモを見て、キアさんたちのIDを自分たちのスマホに登録したのは良いけれど、一向に連絡がこない。 「んー、それだけ平和ってことじゃないかな。あれ以来、トウヤ……だっけ? 彼もこっちに現れないし」  ベッドに仰向けになった私は、天井を見ながら言った。  でも、せっかく魔法界っていう未知の世界と関われたのに、何にもないっていうのも、ちょっと(さみ)しかったり……。私も真理英も、毎日スマホを確認しては、むずむずしている。  スピカさんから渡された、ミス・ウィッチの詳細について書かれた小冊子。真理英は部屋に戻った瞬間、(すみ)から隅まで熟読していた。私は正直、本を読むのがあまり得意じゃないんだけど、今回はさすがに興味があった。だって、本物の魔法使いからもらった、本物の魔法についての本だよ?  スピカさんから口頭で説明されたことも含めて、小冊子にはいろいろなことが書いてあった。けれど、結局のところミス・ウィッチについては、まだまだわからないことが多いみたい。この冊子自体も、スピカさんとか初期のミス・ウィッチさんが、協力して作ったものみたいだし――。 「まあ、このまま何にもないっていうのも、なんかなーって感じだよねー……」  仰向けになったままつぶやくと、真理英がここぞとばかりに話に乗ってきた。 「(おっしゃ)る通りです。私の読書経験上、“仲間との絆”は、“強さ”に直結します。  ミス・ウィッチとしてこれから共に戦うことを考えても、キアさん、セイランさんと、もちろん響とも、仲を深めるということは必要事項だと思うのです」  なるほどなるほど。  私は上半身を起こした。 「本音は?」 「魔法界についてもっと知りたいです! もっと関わりたいです! 本だけではとても足りません!」  まっすぐすぎる思いだ。でも私も同感。 「私に良い考えがあるんだ」 「私もです」  私と真理英は、顔を見合わせた。 「こういうときはやっぱり、アレしかないよね?」 「はい! やりましょう!」 「歓迎会!」「親睦会(しんぼくかい)!!」  え? 親睦会?  なんかそっちの方がかっこよさそう! じゃ、親睦会で! 「何かと思ったら」  スピーカーモードにしたスマホ越しにきこえる、キアさんのため息。  善は急げ、ってことで、早速キアさんたちに電話をかけました。 「またトウヤあたりがちょっかいかけに来たのかと思ったわ。心配して損した」  相変わらず、愛想の欠片(かけら)もないキアさん。あ、でも……。 「心配……してくれてたんですか?」  おそるおそる尋ねてみると、 「当たり前でしょ。  君らに何かあったら、スピカさんに怒られるし、科学界を魔法から守るのは、魔法界の役目だから」  そういうことですか。でも、なんかちょっと嬉しい。 「それより、なんだっけ、親睦会だっけ?」 「はい。これからいろいろとご指導いただくにあたり、ご挨拶もまだ十分にできていませんでしたし、おふたりのことを、もっと知りたいと思っています。  どうか、ご承諾(しょうだく)いただけないでしょうか」 「ふーん……。  だってさ。セイラン、どうする?」 「……」  数秒の静寂(せいじゃく)が訪れ、私たちは、ごくりと(つば)を飲む。 「……わかった」  小さい声だったけれど、確かに聞こえた。 「ん。そういうわけだから、了解した」 「ほ、ほんとですか!?」 「ありがとうございます!」 「そんな大したことでもないだろうに。明日、そっちの学校に行けば良いんだね?」 「あ、ハイ! 共同スペース予約しておくんで、門のところに来てください。場所は大丈夫ですか?」 「当然、それじゃね」 「え、あ、ハイ、失礼します」  言い終わらないうちに、電話は切られてしまった。  ……やった~!  私と真理英は、思わず小躍(こおど)りする。  まさか、こんなにスッキリ承諾してくれるとは思わなかったからビックリ。真理英と一緒に、いくつもの説得パターンを頑張って考えていたけど、それも必要なかったね。  こうなったら、お菓子やらゲームやら、いろいろと準備しなくちゃな。  
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