2人が本棚に入れています
本棚に追加
1 ちょっと慣れた日常
やらかした。
前回、成り行きで魔法界に行くことになっちゃったもんだから、それまでのことを綺麗さっぱり忘れていたんだ。まあ、あの情報量詰め込まれたら、仕方ないよね。仕方ないって言ってほしい。
何はともあれ、ショッピング中だったんだよ、私たち。
男の子――トウヤによる騒動で別れたさらと凛に、連絡をすることをすっかり忘れていた私と真理英は、寮に帰るなり、二人からお𠮟りを受けた。
「どんだけ心配したと思ってんの!?」
「電話してもつながらないし、あの騒動でケガ人は出ていないってきいたけど、それでもすごく不安で……」
顔を真っ赤にしたさらと、涙でうるうるしている凛。
「ごめんなさい!」
私と真理英は平謝り。事情が事情だから、下手に話せないし……。
「……まあ、無事だったんなら良いよ。勢いで言いすぎた、ごめん。
夜遅いし、今日は疲れたし、寝よう」
「おやすみなさい。また明日ね」
「うん、迷惑かけて本当にごめん」
「今日のショッピング、楽しかったです。またよろしくお願いします」
私たちはそれぞれ、寮の部屋に戻る。
「ふう……」
今日起こった一連の出来事は、本当に全部今日のことだったのか疑わしい。でも、ショルダーバッグに入っている、“ミス・ウィッチ・マニュアル”と書かれた小冊子や、キアさんからもらったメモが、魔法界での出来事が本当だったことを証明している。
キアさん……、セイランさん……。
「……うまく、やっていけるかな、先輩たちと」
「……私たちが良く思われていないのは、確かなようです」
だよねえ……。
確かに、普段魔法なんて使わない私たちに、期待しろ、なんていうのは難しいだろうけど、そんな頭ごなしに否定しなくてもなぁ……。
ブツブツ文句を考えながら寝たら、翌日の日曜日の目覚めが、それはそれは悪かった。
それからはしばらく、平穏な日常が続いた。
クラスのみんなの顔と名前も一致してきて、中学校生活にも慣れてきたって感じ。勉強面……は置いておいていただいて。
あ、そうそう! 部活も決まったんだよね。
私は予定通り、軽音楽部に入ったんだ。人数は少ない、っていうか、バンドひとつがそのまま部活動として活動しているんだけど、先輩も同級生も面白そうな人たちばかりで、毎日楽しい。
真理英は、文芸部に入った。なんか、すごく真理英ぽい。でも、案外運動部も候補に入れていたみたいだよ。
寮生活にも慣れてきて、思いっきり楽しめるようになってきました! もうちょっとで、食堂のメニューを全制覇できそうなんだよねー。
こんな感じで、かれこれ二週間くらいの時間を過ごしたんだけど……。
「今日も連絡ありませんね」
金曜日の放課後、寮でのんびりタイム。
スマホを見て、真理英がつぶやいた。
キアさんたちからもらったメモを見て、キアさんたちのIDを自分たちのスマホに登録したのは良いけれど、一向に連絡がこない。
「んー、それだけ平和ってことじゃないかな。あれ以来、トウヤ……だっけ? 彼もこっちに現れないし」
ベッドに仰向けになった私は、天井を見ながら言った。
でも、せっかく魔法界っていう未知の世界と関われたのに、何にもないっていうのも、ちょっと寂しかったり……。私も真理英も、毎日スマホを確認しては、むずむずしている。
スピカさんから渡された、ミス・ウィッチの詳細について書かれた小冊子。真理英は部屋に戻った瞬間、隅から隅まで熟読していた。私は正直、本を読むのがあまり得意じゃないんだけど、今回はさすがに興味があった。だって、本物の魔法使いからもらった、本物の魔法についての本だよ?
スピカさんから口頭で説明されたことも含めて、小冊子にはいろいろなことが書いてあった。けれど、結局のところミス・ウィッチについては、まだまだわからないことが多いみたい。この冊子自体も、スピカさんとか初期のミス・ウィッチさんが、協力して作ったものみたいだし――。
「まあ、このまま何にもないっていうのも、なんかなーって感じだよねー……」
仰向けになったままつぶやくと、真理英がここぞとばかりに話に乗ってきた。
「仰る通りです。私の読書経験上、“仲間との絆”は、“強さ”に直結します。
ミス・ウィッチとしてこれから共に戦うことを考えても、キアさん、セイランさんと、もちろん響とも、仲を深めるということは必要事項だと思うのです」
なるほどなるほど。
私は上半身を起こした。
「本音は?」
「魔法界についてもっと知りたいです! もっと関わりたいです! 本だけではとても足りません!」
まっすぐすぎる思いだ。でも私も同感。
「私に良い考えがあるんだ」
「私もです」
私と真理英は、顔を見合わせた。
「こういうときはやっぱり、アレしかないよね?」
「はい! やりましょう!」
「歓迎会!」「親睦会!!」
え? 親睦会?
なんかそっちの方がかっこよさそう! じゃ、親睦会で!
「何かと思ったら」
スピーカーモードにしたスマホ越しにきこえる、キアさんのため息。
善は急げ、ってことで、早速キアさんたちに電話をかけました。
「またトウヤあたりがちょっかいかけに来たのかと思ったわ。心配して損した」
相変わらず、愛想の欠片もないキアさん。あ、でも……。
「心配……してくれてたんですか?」
おそるおそる尋ねてみると、
「当たり前でしょ。
君らに何かあったら、スピカさんに怒られるし、科学界を魔法から守るのは、魔法界の役目だから」
そういうことですか。でも、なんかちょっと嬉しい。
「それより、なんだっけ、親睦会だっけ?」
「はい。これからいろいろとご指導いただくにあたり、ご挨拶もまだ十分にできていませんでしたし、おふたりのことを、もっと知りたいと思っています。
どうか、ご承諾いただけないでしょうか」
「ふーん……。
だってさ。セイラン、どうする?」
「……」
数秒の静寂が訪れ、私たちは、ごくりと唾を飲む。
「……わかった」
小さい声だったけれど、確かに聞こえた。
「ん。そういうわけだから、了解した」
「ほ、ほんとですか!?」
「ありがとうございます!」
「そんな大したことでもないだろうに。明日、そっちの学校に行けば良いんだね?」
「あ、ハイ! 共同スペース予約しておくんで、門のところに来てください。場所は大丈夫ですか?」
「当然、それじゃね」
「え、あ、ハイ、失礼します」
言い終わらないうちに、電話は切られてしまった。
……やった~!
私と真理英は、思わず小躍りする。
まさか、こんなにスッキリ承諾してくれるとは思わなかったからビックリ。真理英と一緒に、いくつもの説得パターンを頑張って考えていたけど、それも必要なかったね。
こうなったら、お菓子やらゲームやら、いろいろと準備しなくちゃな。
最初のコメントを投稿しよう!