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1 最初っからピンチ
「言い訳なら後できく。まずはこっちがきくことに答えて」
お団子結びの子が、鋭い声で言った。
「君たちは、何者?」
どう答えたら良いのかわからない質問。
「わ、私たちは、……ミス・ウィッチ、です」
おそるおそる答えると、
「知ってる。見ればわかる」
ぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「あたしがききたいのは、……あんまりこんなきき方良くないんだろうけど、種族は何?」
「しゅ、種族? えっと……、おそらく、“人間”と答えるのが正しいんじゃないかと」
「人間? ……科学界の、ってこと?」
お団子の子の顔が、さらに怪訝そうな顔になった。
「本気で言ってるの? 科学界の人間が、ミス・ウィッチになったって? 君たち、明らかに魔力持ってるよね。
ミス・ウィッチは強力な魔力を扱う、特別な魔法使い。魔力を持たない科学界の人間が、なれると思ってるの?」
なんか、ついさっき聞いたことがあるような言葉だ。あれだ、あの男の子が同じようなことを言っていた気がする。
「あたしたちは、科学界なんかでミス・ウィッチが出現したっていう報告を受けたから、ここまで来た。正直に言うと、君たちのこと、のこのこ科学界に来て魔力を振りかざす、不審な魔界人かなにかだと思っている。
だってそうでしょ? こんなところにまであいつらが来るわけないし」
「あ、あいつら?」
「ミス・ウィッチの敵。あいつらの狙いは、あたしたちミス・ウィッチなんだから、わざわざ魔法がないこの世界まで、出向く必要がない」
「て、敵っぽい子なら、私たち会いました」
マリエが勢いで言う。
お団子の子に、動揺が見られた。
「本当です。今日ここでと、二週間くらい前にショッピングモールで。二週間前のときに、私たちは初めてこの姿になったんです。
それで、私たちや、商店街を攻撃した敵を、二人で追い払いました」
緊張で声が震えていたけど、言いたいことを言ってくれた。
「……追い払った? 二人で?
魔法の使い方、知らないんじゃないの?」
お団子の子は、わけがわからないという感じで言う。
「そこは、なんとなーくフィーリングで……」
私は、すかさずフォローを入れる。
「……ダメだ、頭の処理が追い付かない。
いや、それよりも、科学界にあいつらが来ていたというのが問題だ……。一刻も早く知らせないと……」
お団子の子は考え込んでしまった。でも五秒後、何かを決心したようにパッと顔をあげる。
「君たちのことは、向こうについてから考える。つーわけで、とりあえずついてきてもらおうか」
向こうって、どこですか?
そう尋ねる暇もなく、お団子の子は、空を飛んでどこかに向かっていく。突然のことであっけにとられていると、
「行くよ」
急に後ろから声をかけられたと思ったら、無表情なポニーテールの子(そういえばこの子、ここまで一言も喋っていなかった)の顔がすぐそばに! 後ろから私たちの背中を軽く押すようにして、お団子の子の後に続くことを促す。
なんだろう、圧かな! 圧が怖いんだよな!
大人しく、私とマリエはお団子の子の後を追った。
たどり着いたのは、暗めの路地。
だいぶ移動したし、方向的に学園の方だったから、結構学園に近いんじゃないかな、ここ。
でも、いきなり路地に連れ込まれるなんて、相手がこの人たちじゃなかったら、なにがなんでも逃げてるよ。いや、本当は相手がこの人たちでも逃げたいんだけど。
「あのー、なんですかここ?」
私が尋ねると、
「……しらを切っているのか、本当に知らないのか……」
お団子の子はそうぼそっとつぶやくだけ。
か、感じ悪……。
「ま、今はどっちでも良いや。それじゃ行くよ」
そう言うと、お団子の子は路地の行き止まりにむかって、ずんずん歩いていく。
「え? 何してるんですか?」
お団子の子が、奥の壁に触れる。
その途端、しゅわん! と、壁が消えた!
先にはまだまだ路地が続いているけれど、遠くの方は暗くてよく見えない。
な、なにこれ……。
「ついてきて」
言われなくても、お団子の子とポニーテールの子で挟まれている私たちに、引き返すという選択肢はない。そのまま路地の奥に進んでいく。
路地はどんどん暗くなっていく。
鳥肌が立つような、怪しい空気がたちこめている。
そのうち、視界は真っ暗になった。
それでも、足を止めることなくどんどん進んでいくと――。
いきなり明るくなった。思わず目をつむる。
徐々に光に馴れてきたので、ゆっくりと目をあける――。
このときの感動は、言葉で言い表せない。
空が紫色なんだ。
気高い丘から見える景色は、昔絵本で読んだような街の風景。見たことあるようだけど、絶対に見たことはない景色だった。
遠くの方にはもやが見える。何ともファンタジーな空間。
私たちのすぐ近くは自然豊かで、何とも言えない怪しげな雰囲気を感じる。
通り抜ける風に鳥肌が立つ。でも、ほんのりあたたかい……。
魔法界だ。魔法界に来ちゃったんだ。
隣にいるマリエに視線を移す。
「!!! ……!!!」
言葉にこそなっていないけれど、様子からこの上なく感激しているのが伝わってきた。
「……まじか。本当に君たち、科学界の人ってわけ?」
少し呆れた声がして見ると、ボブカットの女の子がいた。雷のような形の、前髪の飾りには見覚えがある。お団子の子と同じものだ。ということは、この子はさっきのお団子の子が変身する前の姿ってこと?
隣にいるポニーテールの子の変身前の姿は、ポニーテールのボリューム感がなくなった。でも、このなんとなく冷たくて威圧感がある雰囲気はそのままだ。
「その反応、きっと心からなんだろうな。……納得できないけれど、理解はしたよ。
ところで、君たちも変身といたら?」
ボブカットの子に言われて、私とマリエはそれぞれのアイテムを握りしめ、元の姿に戻る。
「よし、それじゃ目的の場所に行くよ」
ボブカットの子にさらに連れられて、私たちはあたりをきょろきょろ見ながら先に進む。珍しい景色すぎて、本当は立ち止まってゆっくり鑑賞したかった。
たどり着いた場所は、森の中にポツンと一軒建つお店のような小屋だった。
木でできているらしく、温かみを感じる外観だ。ガーデニングが趣味なのか、見たこともない綺麗な花がたくさん咲いている。
「帰りましたー。キアでーす」
ボブカットの子が、ガチャっとドアを開けて言った。
中は音沙汰なし。
「あれ?
もしもーし、科学界にいたミス・ウィッチ、連れてきましたよー」
またもや返事がきこえる気配なし。
「……はぁ、地下にこもってるな」
ボブカットの子がため息をついている間に、店の中を観察する。
そんなに広くないお店だけれど、いろいろなものが置いてある。アクセサリーとか、食べ物・飲み物とか、使い道が想像もできない道具とか。どれもこれも、とっても可愛らしいデザイン。
ふと見ると、ボブカットの子は店の奥へずんずん入っていく。そして、床に手を伸ばしパカッと開けると、
「スピカさーん! 連れてきましたよー!」
穴に向かってそう叫んだ。
次第に、ドタドタとした音が近づいてくるのを感じる。
穴から誰かが、ひょこっと顔を出した。
「いやー、ごめんごめん! ちょっと奥で作業してたんだ」
「やっぱりね」
「お帰り、キア、セイラン!
あっ、そのふたりだね? 連れてきてくれてありがとう! おふたりも、いらっしゃい!」
屈託のない笑顔を向けられた。私と真理英は、戸惑いながら軽く会釈をする。
輝くような黄色い髪を、短く三つ編みおさげにしている女の人。年齢は……どうだろう? なんとなく幼さがあるけど、どことなく落ち着いた印象もある。私たちより、だいぶ年上なんじゃないかな。
「ふむふむ、雰囲気はどうやら魔法界の人ではなさそうだね……。うーん、こんなこともあるんだな。
立ち話もなんだから、四人ともこっち来て。一緒にお菓子でも囲みながらお話しよう!」
ボブカットの子(ついでにあの男の子)に疑われていたのが嘘みたいに、するっと納得してくれた女の人。こっちおいでって手招きして、出てきた穴から元に戻っていく。というか、さっきボブカットの子がぼそっと言っていたことから察すると、地下室か何かがあるんだろう。
ドキドキしながら、穴の中の梯子を下りていく。
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