2 疑問が解決する? 謎が増える?

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2 疑問が解決する? 謎が増える?

 梯子(はしご)を下った先には、短い廊下と小さな部屋があった。  何の変哲(へんてつ)もない普通の部屋だ。  というか、一人用のテーブルとイス、大きな本棚、物入れとかがあって、きっとあの女の人が、普段作業でもしているんじゃないかな、この部屋。 「ここで何されていたんですか?」  真理英が尋ねる。緊張と興奮で、若干声のトーンが上がっている気がする。 「ああ、さっきいたのはここじゃないよ」  女の人が答えた。 (並んでみてわかったけれど、この人背が低くて“女の人”ってよりは“女の子”って感じがする。今さら変えないけれど) 「え?」  首をかしげる私と真理英を見て得意げに笑いながら、女の人は廊下の壁の一部分を、何かの図形を描くようにして指でなぞった。  するとびっくり。壁が光ったと思ったら、左右に開いて通路が現れた。(“ひらけ、ゴマ!”とか言ってみたい)  なんですか、このからくり屋敷のような仕掛けは……。 「秘密の場所。他言無用(たごんむよう)だよ~」  そういって、鼻歌まじりに進む女の人の後についていく。  その秘密の場所、ていうか地下室第二弾が、マジで広いんだよ。  女の人による、ご丁寧なルームツアーが繰り広げられたことで、一発でこの地下の大体のことがわかった。  部屋は全部で七つ。  ちょっとした会議室みたいな広めの部屋が二つと、そこよりは少し狭いけれど、家具が置かれていないから広く見える部屋が一つ。ホテルの一室みたいに、お一人様が泊まれそうな部屋が二つ。  あと二つの部屋は、ドアが閉まっていて中は見なかったけど、それぞれドアプレートがかかっていた。  その他、キッチン・トイレ・シャワーもあって、このフロアだけですべてが整っているって感じ。  そして、地下なはずなんだけど、地上みたいに明るい。なんでだろう? 電球とか見当たらないのに、不思議。 「どう? すごいでしょ?」  女の人が言う。 「ここはもともと、私が格安で買い取った場所でね。なんせ森の奥深くだから、交通の便が良くないの。お店を開くには最悪のロケーション。  でも雰囲気良いしまぁいいや、って思ってたら、まさかこんな壮大で夢のような場所が隠されていたなんて! というわけで、今はミス・ウィッチの本部として、有効活用してるってわけ。  さあ、そろそろ本題に入ろうか」  私たちは、会議室のうちの一つに通される。  私と真理英は、ボブカットの子とポニーテールの子と向かい合うようにして座る。女の人は、前のボードの前に立った。 「自己紹介が遅れたね。私も二人のことよく知りたいし、順番に自己紹介していこうか。  じゃあ、まず私から」  女の人が話し始める。 「私はスピカ。年はつい昨日、二十三歳になりました。  普段はここで道具屋? 雑貨屋? 的なものをやっています。おふたりさんにわかりやすいように言うと、私は魔法使いです!」  おおお。女の人――スピカさんが、バシッと言い切った! 超今更ながら、魔法使いって実在するんだね……。 「そしてもうひとつ。  私はミス・ウィッチのリーダーをさせてもらってます。まぁ最初にミス・ウィッチになったからなんだけどね。  ミス・ウィッチとか、この魔法界のことについては、のちのち私から、軽く説明しようと思います。どうぞよろしく! 以上!」  スピカさんは、ボブカットの子に視線を向ける。 「キア達は、ふたりに挨拶した?」 「してません」 「じゃあ次どうぞ!」  ふられたボブカットの子が、……なんか面倒くさそうに立ち上がる。 「あたしの名前はキア。十三歳」  十三歳……ってことは、私たちの一つ年上の可能性が高いのかな? 「……って、何言えば良いんですかコレ?」 「え? 普段していることとか?」 「そこら辺をぶらぶらして、ときどきミス・ウィッチの仕事してます」  ……。 「それだけ?」 「最近暇だったんで」 「()()ないなぁ、何か嫌なことでもあった?  ああ、ちなみにキアはこう見えて、料理とか裁縫がすごく上手なんだよ」 「こう見えて、は余計です」 「それと、キアも私と同じく魔法使い、だよー。ありがとう、キア。  それじゃ次、セイラン、良い?」  スピカさんに言われて、すっと立ち上がるポニーテールの子。 「……名前は、セイラン。十三歳。魔法族」  淡々と言うセイランさん。 「“魔法族”っていうのが、だいたいおふたりの認識で言う魔法使いのことだよ」  スピカさんが補足する。 「キアとセイランは、いわゆる“自分探しの期間”なの。科学界には、なじみがない文化かもしれないね。二人とも今は、この私の店兼自宅に住んでるんだ。  セイランは、静かでちょっと怖く感じるかもしれないけれど、良い子だからぜひ仲良くしてほしいな。ありがと、セイラン!」  ちょっと……ていうかだいぶ怖いです既に。セイランさんはそれ以上何も言わず、静かに席に座った。  キアさんに、セイランさん、そしてスピカさん……。この人たちが、先輩ミス・ウィッチ……。そして、本物の魔法使い……。  今日は間違いなく、今までの相崎響の人生で、一番情報量が多い日だと思う。 「それじゃあ、ふたりも自己紹介お願いしていいかな? まずはあなたから!」  スピカさんは私の方を見て言った。私は立ち上がる。 「えっと……、相崎響っていいます。十二歳です。  ……えっと、何言えばいいですか?」 「うーん、特技とか、好きなこととか知りたいな!」  そんなので良いんかい。もっとなんていうか、核心をついたことをきかれるかと思った。 「特技は……、楽器を演奏することと、歌うことです。  好きなことも大体一緒です。基本的に音楽が好きで」 「音楽か! 良いねぇ。楽器は何が好きなの?」 「何でも好きだけど、特にギターが好きです」 「へえー! 私、生でギターって見たことないんだよね! こっちではかなり珍しいから。  いつか見てみたいな、響ちゃんが音楽しているところ。  ありがとう! じゃあ次、お願いします!」  今度は真理英が立ち上がる。 「み、翠川真理英です。響と一緒で、十二歳です。  特技……、好きなものに関しての知識は、誰にも負けないと思っています。  好きなことは読書、あと自分が知らないことを新たに知ることです」 「おお、読書好きか。私の家にも、いろいろな本があるからねー。当然そちらの世界にはないものばかりだよ! 読みたかったら貸すよ」 「ほ、ホントですか!?  ……あ、でも、魔法界の本って、私でも読めるのでしょうか?  その、言語とかが違うのではないかと思いまして……」 「確かに使ってる言葉は違うけど、その点は問題なし!  魔法界の言語は、全く知らない人でも、読みたい、聞きたいっていう思いさえあれば、勝手にその人が理解できる言語に変化するんだよ。  逆も然り。魔法界の人は、あらゆる言語を魔法界の言葉に置きかえて読むこと、聞くことができる魔法を、早い段階で習得してるんだ。  現に私たち、普通に会話できてるでしょ?」  ……確かに。  ていうか、うらやましいな、その能力! 私はその能力を、英語の授業で使いたい……。 「そうなんですね……!  で、では、後ほど何冊か貸していただくことは可能でしょうか……?」 「もちろん! あとで書庫の方に案内するね!」  それをきいた真理英の表情は、光輝いて見えるほどに明るくなった。  ていうか、自宅に書庫があるの……? 「ありがとう、真理英ちゃん!  いやー、新しい知り合い、しかも科学界の子だなんて嬉しいな」  スピカさんが微笑む。  今まで私たち、魔法界に受け入れられていなさそうな感じだったから、なんかちょっと安心するな。 「前置きが長くなっちゃったね。こんなに雑談してたら、飽きられちゃうな。    時間もそんなにないし、二人も気になっていると思うから、ミス・ウィッチの概要について説明するね。言うまでもないと思うけれど、大事な話だからしっかりきいてほしいな」  スピカさんがペンを構えてボードに向かう。 「まずは、魔法界と科学界について」  線を引いてボードを二分するスピカさん。 「その名の通りなんだけど、魔法界は魔法で回っている世界、科学界は科学で回っている世界。  魔法界の人は科学界のことを知っているけど、科学界の人は基本的に魔法界のことを知らない。  今はこのくらいの認識で良いかな」  左側に魔法界、右側に科学界と書いたスピカさんは、必要に応じて情報を書き加えていく。 「魔法界には魔法使いだけじゃなくて、いろいろな人たちが暮らしている。人だけじゃなく、動物も植物も。それぞれ得意なことを生かして生活しているんだ。まあそれは、科学界も一緒だね」  どうでもいいけど、スピカさんがかき足す情報は、九割方イラスト。そして、タッチがなんというか、独特。人っぽいものをいくつか描いている……ような気がする。 「それじゃ、次はいよいよミス・ウィッチについて」  スピカさんがボードに向かって、手を払うように動かすと、ボードにかいてあったものがしゅわーっと消えた。  ……こういうところが魔法界。 「ミス・ウィッチに関しては、正直なところ、“世界を救うための強大な力を持つ特別な魔女”っていうことぐらいしかわかっていないんだ。しかもその力は、ある日突然与えられる。  現在のところ、ミス・ウィッチは二人をいれて全部で十人。私が最年長の二十三歳、最年少は二人が更新して十二歳になるかな。  みんなそれぞれ何かのアイテムを媒介(ばいかい)して、特別な姿に変身して、世界を脅かす脅威(きょうい)と戦う――」 「それって……?」 「魔法界を支配しようとする、謎の集団だよ。ミス・ウィッチの強大な魔力を危険視して狙ってくるんだ。  ミス・ウィッチの仕事はとりあえず、その敵を倒して世界の平和を守ること」  うわあ、マジで漫画みたいな話だ……。 「もともと魔法界って、自分の身は自分で守らなきゃいけないってくらい危険なことも結構あるから、意外とみんな素直にミス・ウィッチとして活動しているんだ。  でも……」  スピカさんは、言葉を切って私たちのほうを見た。 「科学界と魔法界じゃ、事情が違う」
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