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4 すごいよミスマジック
「見つけたぞーーーーーー!!!」
なんか叫び声がした。上から。
空を見上げると、
「オイラの作ったこの機械、ミスマジックの気配を察知して追跡する、“ミスマジック・サーチャー”! 成功だ!」
なんと、二度の戦いを繰り広げたあの男の子が、紫色をした空から降ってきた!
「はるばるとオイラ、参上! 今日こそ決着をつけてやる!
って、あれ?」
男の子はこちらを見て、大きい目をぱちくり。
「なんか、多くない? オイラは、ピンクのと緑のと戦いんだけど……。
……あ、お、お前ら、いつものミス・ウィッチじゃねーか!」
男の子が、キアさんたちの方を指さす。
キアさんが、私とマリエに言う。
「ちょっときくんだけどさ……、もしかして、この前キミらが相手したのって、アイツ?」
「え? ハイ、そうですけど……」
キアさんが、何とも言えない顔をした。
「……なんだ」
なんだとはなんですか。
「アイツはな、敵の内に入らないんだわ、弱すぎて」
キアさんの手に、杖が現れる。水晶のような球体のオブジェの中で、電流が走った。
「なっ……、おい! 今オイラのこと、弱すぎるとか言ったか!?」
「ああ。なんだよさっきの“いつものミス・ウィッチ”って。滅多に出させてもらえないくせに、一丁前に宿敵気どりしてるんじゃないよ」
「な、なんだとー!?」
「こっちは今取り込み中なんだ。さっさと帰れ――」
「待ってキア」
スピカさんが、キアさんを制止する。
「これは……、グッドタイミングかも」
ちょっといたずらっぽく笑うスピカさん。
「ヒビキちゃん、マリエちゃん。今からミスマジック、使ってみよう」
「え? 今ですか?」
「あちらの彼は、どうするんですか?」
「実践!」
「「「え?」」」
私とマリエと、ついでにあの男の子。三人の声がきれいにハモった。
「とりあえず、まずは基本呪文だね」
えっ、いきなり!?
「マリエちゃん、彼に向かって、“ミスマジック・ユージュ”って唱えてみて」
「は、はい!」
マリエは一歩前に出て、深呼吸をした後、右手で杖を構えて、男の子のほうを向く。
「ミスマジック・ユージュ」
その瞬間、マリエの杖は緑色に強く光る。
なんだろう。何かがこの前とは違う。光自体はそこまで大きくないのに、肌にビリビリくるような力強さを感じる。
「す、すごいです……。飲み込まれそう……」
「マリエちゃん! 大丈夫だから、意識を集中させて! その力が、マリエちゃんに適合していくはずだから!」
スピカさんが呼びかける。
マリエは目を閉じて、神経を研ぎ澄ませた。
杖の光から、すべてを引き込むような力を感じる。
「わあ……」
私は思わず、感嘆のため息をこぼした。
辺りの地面から、綿毛のような無数の淡い光が、ぽわぽわと浮かんでくる。
ものすごく綺麗で、神秘的。
「これが、マリエちゃんのミスマジックだね。さながら、“大地”といったところかな」
スピカさんがうんうんとうなずく。
「これだけ広くから力が集まれば、かなり強力な魔法が使えるはずだよ。
さあ、マリエちゃん。自分が思うままに、ミスマジック、使ってみて!」
「……はい! わかりました!」
「何だか知らないけど、オイラには関係ねぇ!」
男の子がそう叫ぶなり、マリエに向かって光線を発射!
カッと目を開くマリエ。
軽く杖を動かすと、綿毛のような光がマリエの前に集結して、光線を吸収する。
「なに!?」
動揺する男の子。
マリエが、杖を前方に向けて振る。
無数の光の筋が、ものすごい勢いでうねりながら男の子のほうへ。よく見たら、光がつたのように見える。
ここが森だからなのかな? “大地”のミスマジック。周りの空気すべてが、マリエの味方をしているみたいに見える。
男の子はつたにあっという間にぐるぐる巻きにされた。
「なんだこりゃ、う、動けない……」
「すごい……。手足のように使えます、この魔法……」
驚きと感動で、満ち溢れている様子のマリエだった。
「いい感じ!
それじゃ、今度はヒビキちゃん! 一気にしめちゃおう!
呪文は、さっきのマリエちゃんのと一緒で!」
「ハイ!」
両手で杖を構える。あんなすごい魔法、私にも使えるのかな? わくわくする。
「ミスマジック・ユージュ!」
杖がピンク色に強く光る。
おっ? 同じ呪文だったけど、魔法自体はマリエのとは違うかも。
わっ、な、なんか、力が吸い取られていくみたいだよ……。
焦らない、焦らないで、意識を集中させるんだ――。
光はやがて、渦を巻く。そのあと、八つに分裂して、バスケットボールくらいのサイズのカラフルな球体になった。
えーと……。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド♪
球体がはねて、可愛らしい音が鳴る。
「これは……、“音”?」
「そうだと思う! ヒビキちゃんにぴったりだね!
よし、行けーヒビキちゃん!」
……よーし!
杖を円を描くように動かす。
八つの音の球が、円になってくるくると回り出す。
私は杖を前に突き出した!
音階を奏で、勢いよく飛んでいく音の球。
そして、つたにがんじがらめになっている男の子にヒット!
つたにまかれたまま、吹き飛ぶ。
「くそーッ! これじゃオイラ、また認めてもらえないッ……!」
あっという間に小さくなっていく男の子。
「ひ、人をチュートリアルに使うなああああぁぁぁ……!」
そんな感じで叫んでいた。
「二人ともお疲れ様!」
私たち五人は、元の姿に戻った。
「とても普段魔法を使ってないようには見えなかったよ!
ミスマジックは慣れてきたらもっと使いこなせると思うし、思わぬ使い方も見つかるかも。でも、初めてにしては十分すぎる活躍だったよ!」
スピカさんに言われて、ちょっと誇らしくなる私たち。
「はいこれ。ミス・ウィッチの特製冊子! 私とか初期のミス・ウィッチで作ったものだよ。
一応現状わかっているミス・ウィッチのこととか、ミスマジックのこととかは、ここに全部書いてあるから、どうぞ持っていって」
そういって、私と真理英に小冊子をくれる。表紙のイラストが、なんていうか、これまた独特なタッチで……、うん、なんか良い感じ。
「ありがとうございます」
「ついでだから言っておくと、今日のあの男の子は、敵のなかで使いっ走りみたいな扱いを受けている子で、名前はトウヤっていうらしいよ。たまーにあんなかんじで、ミス・ウィッチにちょっかい出してくるんだよね」
そうなんだ。
つまり、あれでも、一番弱い相手だったってことか。
「他の奴らは、アイツみたいなへなちょこじゃない。相当の実力を持っている。アイツひとり倒せたところで、調子に乗るな」
う、キアさん、言葉の端々にとげがある……。
「決して今日みたいにうまくいくことはない。まったく、本当にこの二人にミス・ウィッチの任務を託すんですか?」
「確かにキアの言う通り、やっぱり不安なところはあるよね」
「科学界に来た敵ってのも、結局あのチビスケだったんでしょ? なら、そこまで科学界に関係を持つ必要はないと思います。ミス・ウィッチの任務諸々のことは、綺麗さっぱり忘れてもらいましょう」
「うーん、でもそれはちょっと早計すぎるっていうか。
仮にもう二人には関係ないってこちらが言ったとしても、敵側はどう思うかわからないよ? 狙われる可能性だって十分ある」
「まあ、それもそうですけど……」
「それでね、私に考えがあるの」
スピカさんは言った。
「キア、セイラン。
響ちゃんと真理英ちゃんの先輩役として、科学界に行ってくれないかな」
「……はあ!?」
キアさんが、ものすごい声を出す。セイランさんも、声には出さないけど顔から驚きと不満が読み取れた。
私も真理英もびっくり。
「いやいやいや、何でそうなるんですか!?
科学界を担当するにしても、別にあたしたち自身が住む必要はないじゃないですか! 魔法界と科学界は、簡単に行き来できるんですから!
しかも、この二人に指導!? ろくに魔法も知らないやつらに!?」
「じゃあ教えてあげれば良いじゃない。逆に科学界のことについては、響ちゃんと真理英ちゃんに教わりなよ~。私も何回か行ったことあるけど、素敵なところだよね〜」
「別に興味ないですから!」
キアさんの、頑なに拒否する態度。
ここまでかるーいかんじで話していたスピカさんだったけど、真正面から、キアさんとセイランさんを見て言った。
「魔法界のほうは、残りのみんなで何とかするよ。
魔法を使い慣れてない二人の安全を守りながら、ミス・ウィッチとしていろいろと教えてあげる。これは、今一番勢いがあるキアとセイランにしかできない役目だと、私は思ってる。
それにね、これは響ちゃんと真理英ちゃんのためだけじゃない。キアとセイラン、二人の力にもなると思うんだ。
お願い、キア、セイラン。二人をサポートしてあげて」
黙りこむキアさん。体が震えてます。
「……これは、リーダーに言われたから仕方なくやるんです。
決して、あたしの意志じゃない!」
苦し紛れにキアさんが言う横で、セイランさんが軽くうなずく。
とても良い笑顔をするスピカさん。
「うん、ありがとう、すごくありがとう!
そういうわけだから、響ちゃん、真理英ちゃん。これからはこの二人に何でも聞いてね。さっき渡した冊子の中身も、基本的にはキアとセイランが直で教えてあげて!」
「はあ……」
ふっかいため息。
「そういうことで、みんなでわいわい仲良くやってね!」
わいわい仲良く……。
ちらりと横を見ると、キアさんに睨まれてしまった。
仲良く、できるだろうか、……いや、できない。
(これを“反語”と言うらしいです。)
気がつけばかれこれ三時間くらい過ぎていた。
私たちは、科学界に戻る支度をする。キアさんとセイランさんは、大量の荷物を持っていた。ちなみに真理英は、スピカさんから借りた本を、自分が持てる精一杯の量抱えている。
「それじゃ、気を付けて帰ってね。
キアとセイランも、体に気をつけるんだよ」
「子ども扱いしないでくださいよ。はあ、なんでこうなるんだか」
「こらこら、ため息つくと幸せが逃げるよ、キア。新しい世界の“見ず嫌い”は感心しないな。
セイランも、魔法界から外れて、広い世界を見ておいで。きっとプラスになるよ」
「……」
黙ったままのセイランさん。観念したように目を閉じた。
「響ちゃん、真理英ちゃん、心配しないで。なんだかんだで、きちんとやってくれる二人だから。
年齢から察するに、ふたりとも新生活が始まったばっかりでしょ? そっちの方を存分に楽しんでくれたまえ!」
そういって、にっこり笑うスピカさん。
「またわからないことがあったら、連絡してね~」
「ハイ。いろいろとありがとうございました!」
「ありがとうございました。失礼します」
私たちは、スピカさんのお店――ミス・ウィッチの本拠地をあとにした。
あれ?
「ミス・ウィッチの本拠地であるスピカさんのお店の場所、トウヤって子にバレてるのって、やばくないですか?
しかもあの子、“ミスマジック・サーチャー”、とかなんとか言ってませんでした?」
帰り道、ふと思った私は、キアさんにきいた。
そうしたら、
「……んなの、君らが気にするほどのことじゃない。
過去にも何度かそういうことはあった。でも所詮アイツは敵側にとって、その程度の存在なんだよ……」
こっちも向かずにぼそぼそっと言うんだよ。
ぐ……。な、なんだよもう……。
でも、よくわかんないけどキアさんたち、全然気にしてなさそう。大丈夫なのかな。
行きに通った通路を通って、科学界の路地に戻る私たち。
なんでもこの通路、知る人ぞ知る、科学界と魔法界をつなぐ通路なんだって。実のところ、魔法界の人もホイホイ使っていい通路じゃないらしいし、もちろん科学界にはバレちゃいけない。
「……あたしたち、近くのアパートか何かで暮らすから。何かあったら連絡すること。
……あとこれ、スピカさんが作った、あたしとセイランのIDが書いてある」
「あ、ハイ、どうも……」
「くれぐれも勝手な行動は起こすな。むやみに魔法を使うな。絶対に他人に言うな。以上!」
早口で言うなり、スタスタと通りの向こうに行ってしまったキアさん。追いかけるようにしてセイランさんもいなくなる。
……か、感じ悪い……。
「……帰りましょうか?」
「……うん」
先行きが不安になったところで、私と真理英の初めての魔法界編は、幕を下ろすのでした……。
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