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山女がその言葉の意味を理解するより早く、里人達の手によって地面に押さえ付けられた山女は、手足を縄できつく縛られてしまう。
地面に転がされた状態のまま、不安に揺れる瞳で皆を見上げた山女の頬に、ポツリと雨粒が落ちてきて。
やがてザァァァというざわめきを伴って、視界が霞むほどの雨が降り始めた。
「俺が責任を持って山女を龍神様んトコへ戻して来る」
そんな雨の中、男衆の中で一際身体の大きな里長の息子が山女を肩に担ぎ上げた。
「いやっ」
急に米俵でも持ち上げるみたいに男の肩に載せられた山女は、恐怖に身体をすくませて悲鳴を上げた。
だが、その声すら許せないと言わんばかりに、周りにいた男らの一人からすぐさま口の中に布を突っ込まれて猿轡を嚙まされてしまう。
里に戻れば疎まれるだろう事は分かっていた。
でも、ここまで拒絶されるだなんて思っていなかった山女は、雨に濡れながらポロポロと涙を零して恐怖心に耐えた。
今朝方、辰に里の麓まで送って貰った時には、まさかこんな風にすぐさま自由を奪われて来たばかりの道を引き返す羽目になるとは思いもしなかった。
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