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「身寄りのないお前を、里の皆で死なないよう面倒を見てきてやったのは、きっとこのためだったんだ」
「髪が短いのが気になるが、幸いお前は見目が良い。綿帽子でも被れば何とかなるだろう」
「今こそ皆に恩返しをするときだよ、山女」
「新月に月の触りがくるなんて、お前は本当にツイてるね。龍神様の花嫁に選ばれるのは栄誉ある事なんだから胸を張ってお行き」
下腹部の鈍痛に耐えながら、粗末な着物の臀部を赤く染めた山女を見て、里の大人たちは口々にそう言って喜んだ。
山女はその日のうちに貧しいこの里では高級すぎるほどに豪華絢爛な美しい花嫁衣裳――白無垢を着せられて、〝特別な〟輿に乗せられた。
贄を送り届けるためだけに作られた、人がひとり座るのがやっとと言ったサイズの輿は、カパリと被せる形の蓋に至るまで、周囲をぐるり縄で縛られて、内側からは決して開けることが出来ないようにされている。
縄には神社などの神域でよく見かける、稲妻を模した白い紙――紙垂が取り付けられていて、如何にも神への供物という雰囲気を醸し出していた。
輿の中にいる山女には自分が入っている籠がどのように飾り付けられているのかは見えないけれど、この里に生まれた者の一般的な知識として、何となく知っていた。
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