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魔弾の射手~マダンノシャシュ~
マドモス島、その西一帯に広がる海賊砦。
海賊の配下が暮らす都市をも含むこの砦全体にけたたましい警報が鳴り響く。
それは当然、中央部高台の海賊首領の屋敷にも響いていた。
「くそ!!!
何をやってる馬鹿どもが!!!!」
そう言って悪態をつくのは、何も身に着けない裸で、燃え盛る艦艇待機所を見つめるヴィンセントである。
海賊として大切な商売道具である海賊船と、その戦力であるヘリが失われた事実を、ヴィンセントはすでに理解していた。
これでは、海賊行為を行うことができない。海賊としてはもはやお終いだと言ってもいい。
「クソが!!!!」
そう吐き捨てつつ、その手にした薬タバコを火が付いたまま、背後でおびえている裸の女に投げつけるヴィンセント。
女はたまらず悲鳴を上げた。
「こうなったら……。クソ日本人どもを生かしては帰さん……」
憎々しげにそうつぶやいたヴィンセントは、無線通信機を手にして配下の機甲部隊指揮官に通信を送る。
「おい!!! これから俺様に敵の情報を送れ!!!!
これからは俺が部隊を直接指揮する!!!!」
それは、最後の悪あがきとは違う、彼自身玉砕しようなどとは思ってはいない。
軍人としての絶対的な自信をその目に見ることができた。
「クソ日本人どもを捻り殺す……。
もし生き残っても……徹底的に嬲り殺しにしてやる……」
その顔は、まさしく悪鬼そのものであった。
◆◇◆
「あれ?」
高台に155㎜狙撃銃と共に伏せていた4号機のオルトスがそんな言葉を発する。
「ふん? なんていうか敵軍の動きが変わった?
こっちから見えない位置に移動しちゃった。……まずいかな?」
次の瞬間、
「!!!!!」
ズドドドドドドド!!!!!!
すさまじい超高速弾の雨が、4号機が伏せる高台へと殺到する。
「うひゃああ!!!!!!!」
素っ頓狂な悲鳴をあげつつ、腰の重力波フロートをの出力を最大に発揮させる4号機。
そのまま、155㎜狙撃銃を捨てて横方向に回避運動をした。
ドン!!!!
轟音をあげて弾薬ごと爆発する155㎜狙撃銃。
4号機はそのまま地面に激突すると、無様にゴロゴロと転がった。
「あ……危ない……。
これって、リニアキャノン? もしかして、対空迎撃用の長射程リニアマシンキャノンか……」
そう、それは本来爆撃などに対処するための対空迎撃システム。それを……、
「そうだよね……。リニアキャノンだから、対地でも使えるし……」
オルトスの4号機は地面に伏せつつ、ずるずるとその場から逃走を図る。
ズドドドドドドド!!!!!
そうしている間にも、リニアキャノンの弾丸の嵐は、高台をえぐり崩壊させていった。
「に……逃げないと死んじゃう……」
オルトスは顔を青ざめさせつつ、その場からゆっくりと離れる。
しばらくすると、弾丸の嵐がピタリとやんだ。
「いまだ!!!」
そのまま、一気に立ち上がった4号機は砦から離れる方向へと急いで逃走する。何とか難は逃れることができた。
「ふう……、早く霞お姉さんと合流しないと」
そうオルトスはため息をついてからその場にへたり込んだ。
そして、ちょうど同時刻。
「……」
「小隊長?」
何もしゃべらない1号機に3号機が語り掛ける。
1号機の冬獅郎は、機体のコックピット内で顔を歪ませていた。
(静かすぎる……。敵の動きが止まった……)
その時、二機の周囲には敵の影が一切消えてしまっていた。
「小隊長? こんなところにいつまでいるんっすか?
移動しましょうよ」
「ああ……」
1号機の冬獅郎はそう呟いて、砦全体が見渡せる位置にいるであろう4号機に通信を送ろうとした。
その時、
ドドドドドド!!!!!!!
「?!!!」
4号機が待機しているであろう高台に激しい粉砕音と土煙が上がる。
二機は黙ってそれを見届けた。
「……小隊長」
「なんだ」
3号機が1号機に語り掛ける。
「移動しましょう……」
「アルファ2?」
「ここ……ヤバいかも」
その言葉を聞いた1号機は素早く判断を下す。
3号機の要は、過去にも同じ発言をして数度部隊を救っていたからである。
1号機と3号機は姿勢を低くすると、急いでその場から退避を始めた。
ドンドンドンドン……!!!!
次の瞬間、二機が隠れていた場所に無数の砲弾が撃ち込まれる。
地面は深くえぐれ、アスファルトが吹き飛んでいく。
そんな光景を悠長に眺めることもせず、一気に砦外へと駆け抜けようとする1号機であったが、
「ち!!!!」
機内の冬獅郎は、収音機がとらえた嫌な音を聞いて舌打ちをした。
キュラキュラ……
それは戦車の走行音――。
ビルの谷間の舗装道路、二機の逃走経路をふさぐようにT131改主力戦車が現れる。
その光景を見た時、1号機の冬獅郎はすでに自分たちが、敵によって包囲状態にあることを理解した。
「クソ!!!」
3号機が88㎜重機関銃の引き金を引く。
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボン!!!!!!!
すさまじい砲撃音と共に、88㎜の弾丸の嵐が目前の戦車へと飛来する。
ドドドドドドドドド……!!!
しかし、その弾丸は強固なT131改の装甲をノックするだけにとどまり、その跳弾が周囲の建物を無意味に穿った。
……と、ビルの谷間を縫うように砲弾が飛来する。
それは、その場で立ち尽くしている1号機の右肩に命中し、そのまま右腕を砕いてしまった。
「小隊長!!!」
とうとう3号機から悲鳴のような声が上がる。
その声に反応するかのように、周囲の舗装道路にT131改主力戦車が集まってくる。
その数、合計4両。
「……」
1号機のコックピット内でそれを見つめる冬獅郎は……、
確かににやりと笑った。
◆◇◆
「いいか!!! ほかにも敵はいるかもしれんが、まずは正面玄関付近の二機を潰せ!!!!
相手はどうせ少数、確実の各個撃破で数を減らすんだ!!!」
ヴィンセントは、手元に指揮管理用のPCを置いて部下に命令を下す。
そのPCの画面には、確かに1号機と3号機が表示されていた。
(フン……。俺の領域で好き勝手できると思ったのか? 馬鹿どもが……)
実は、この砦には各所にセンサーやカメラが仕掛けられていた。それをもとに敵の位置を把握して包囲展開を行ったのである。
ヴィンセントはさらに、RT89改をT131改の後方に展開させる。二機を一気に潰す展開は完成した。
(クク……死ね……)
ヴィンセントは不気味に、凶悪な笑みを浮かべる。
そのまま一気に……、
◆◇◆
「さてと……」
その時、桃華はとある場所に一人立っていた。それは、砦の全電力を賄う発電施設の目前の森林である。
時間を確認した桃華は、一気に発電施設へと90式を走らせる。
そして、そのいきなりな登場に驚く、発電所員に目もくれずその手の20㎜小銃の引き金を引こうとした。
「!!!!」
……と、その時、何か嫌な予感を感じて、引き金から指を離す。次の瞬間に閃光が来た。
「くう!!!!!」
とっさに、その手の20㎜小銃を放り投げる桃華。それは空中で高速飛来する光弾に命中した。
グシャ!!!!
空中で砕け散る20㎜小銃。
次の瞬間、桃華の表情から感情が消える。
信じられない速度で、腰の12.7㎜拳銃を抜くと、光弾の飛来した方向へと3発正確にはなった。
闇の向こうに衝撃音が響く。
「……」
そのまま無言で、拳銃を発電施設へと向けた。
ドンドン!!!
その弾丸を受けた発電施設は火を噴いて爆発する。一気に砦を包む光が消えた。
「第一目標クリアー」
そう呟いた桃華は光弾の飛んできた闇を一瞥すると、何事もなかったかのように砦へ向かった。
◆◇◆
その時、ヴィンセントはPCを叩き壊していた。突然の停電で、敵の情報が入らなくなったからである。
「く……、やはりまだ別動隊がいたか……」
闇の中で燃え盛る発電施設の火を見てそう吐き捨てるヴィンセント。
屋敷内にある予備電源では、砦全体の警備システムを再起動することはできない。
……と、その時、無線通信機から声が発せられる。
「首領!!!! すみません!!!
暗くなった瞬間に、敵機に逃走を図られて……」
「無能が!!!!」
そのまま、無線通信機を投げ壊すヴィンセント。その顔には確かな憎悪が刻まれていた。
◆◇◆
同時刻、闇の中に佇む一人の黒い影があった。
『見事だな……。
まさかあの一撃だけで、こちらの位置を正確に割り出して反撃してくるとは……』
反撃に使用した武器が命中率の低い拳銃でなかったら、こちらはあの一撃で戦闘不能になっていた可能性が高い。
『……』
黒づくめにとって、発電施設を破壊されるのは誤算だった。
敵の狙撃を受けた以上、敵は作戦を中止してこちらへの迎撃、もしくは戦闘回避を図ると考えていたのである。
しかし、あの90式のパイロットは、すぐの二撃目がないと理解したうえで目標の破壊を優先した。
正体不明の敵を前にしての、その判断は感嘆に値するものであった。
『さて……』
闇の中、音も風すらもおこさず黒ずくめは高速で駆ける。
その『対人認識感知』能力は、高速で4号機のもとへと走る2号機の、霞の精神の揺らぎをはっきりと掌握していたのである。
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