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六月最後の金曜日、仕事帰りの居酒屋で隼人とその同期の弘樹がビール片手に話し込んでいる。
「話って何?」
「隼人は美咲と約束神社に行った?」
「行った。いったけどさ、別れたってどういうことなんだろ、約束神社って絶対じゃなかったのかよ。たまに外れるつてことなのか?」
少し不機嫌そうに田中隼人が答えた。北野美咲と約束神社に行ったのは今からだいたい半年前。二人で『死ぬまで一緒にいる』という重い約束をしたというのに、その約束が叶わないまま美咲は父親から無理やり見合いをさせるといわれ実家に連れ戻されていた。いわゆる政略結婚のような結婚のためだ。
自分も美咲もまだ死んでない、のにもう一緒にはいられないんだから、約束は果たされなかったことになる。
窓の外を見てため息をつく。
それを聞いた弘樹は
「え、俺は彼女ともうじき結婚するよ。『結婚して二人で幸せになる』って約束したからね、すでに幸せ~」
ちょっ、のろけるために俺を誘ってのか…
またため息。
「ため息ばかりだと幸せが逃げてくよ~そういえばさ、受付の石田夢香ちゃん、隼人のこと気になってるらしいとうちの香苗が言っていたよ。こんどダブルデートでしようぜ」
高木香苗は弘樹の婚約者。
同い年で去年までは受付、今年度になってからは広報に移動している。
幸せ者とのダブルデートなんてあまり気乗りはしないが、そろそろ美咲のことは忘れて次に行かないといけないのではとも思う。
受付の石田夢香ちゃん、長いまつ毛に目が大きくてふんわりとしたボブスタイルのかわいい女の子だ。年齢は2個下の25歳。
ちょうどいいかもしれない。
と弘樹のダブルデートの誘いに乗ることにした。
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