4日

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 窓から入ってきた翔馬くんに驚きしかない私に対して、茶目っ気たっぷりに唇に人差し指を当てる。 「男子禁制だろ。バレるとヤバいから声出さない」  私も慌てて手で口元を抑える。でも。 「駄目だよ。風邪がうつったらどうするの?」 「風邪は人にうつすと治るんだって。だから俺にうつして早く治してよ。こんなに痩せちゃって…、あんなメッセージ送ってきて…」  私の頬にあたる翔馬くんの手が冷たい。 「熱あるじゃん。座って」  大人しくベッドにもたれて座る。翔馬くんはテーブルの上に箱を置いた。 「一緒に食べる約束のケーキ。形が崩れていたらごめん」  それは小ぶりなホールケーキで、生クリームとイチゴがたっぷりのっていた。 「美味しそう」 「夏生の誕生日のお祝いしなくちゃ。一日早いけれど」  翔馬くんが笑った。 「という口実で友子と一緒にいたかった」 「翔馬くん…」  にっこり笑ってから翔馬くんが立ち上がる。 「飲み物ある? キッチン借りるよ」  紅茶を入れてくれる翔馬くんに夢を見ている気がする。  さっとケーキも切り分けて、お皿に乗せてくれた。至れり尽くせり。 「はい、あーん」 「え、ええ。食べられるよ」 「いいから。お世話してあげたいのに何もできなかったし、そもそも既読スルーで冷たいし。このくらいさせろ」  目の前のフォークには美味しそうなイチゴと生クリーム。思い切り大きな口を開けてみた。 「美味しい」  喉の痛みが感じられないくらい、美味しい。 「本当だ」  気がつくと同じフォークで翔馬くんもケーキを食べている。イチゴ好きな彼は全く気にしていない。  いつもの嬉しそうな顔。翔馬くんは本当にイチゴが好き。だけど…。 「ねぇ、本当にうつっちゃうよ」 「…ついている」  そう言って翔馬くんは私の唇の端を舐めた。 「ねぇっ」 「だから、俺にうつして。かわいそうだよ、こんなにやつれて。あまり食べられないんでしょ。俺にうつして早く元気になってよ」  困ったような顔の翔馬くんが私の頬を撫でる。 「友子が元気じゃないと困るんだ」 「翔馬くん…」  今度はちゃんとキスをした。軽く、何度も触れるようなキス。そして、翔馬くんのため息。 「ごめん。熱が上がっちゃうよな」  熱なのかそうじゃないのかはわからないけれど、顔が赤いことだけはわかる。 「治ったらどこかに行こう。来年こそは野球も見に行こう。また夏生のお祝いをしよう」  抱きしめてくれる翔馬くんの体をギュッと抱きしめる。翔馬くんの汗の匂いがして、こんなに一生懸命会いに来てくれたことが嬉しくなった。 「うん。ありがとう。来てくれてありがとう。大好き」 「…だから…そんな潤んだ目でそんなこと言わないで。我慢してんだから」 「何を?」 「…小悪魔」  もう一度触れるだけのキスをして、私はベッドにもぐりこみ、翔馬くんはそっと窓から帰った。  私は熱に浮かされていたに違いない。私の部屋は4階だったことを忘れていたのだから。
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