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 私に人生初の『推し』ができた。それは夏生くん。なりたてほやほやのプロ野球選手だ。  高卒ルーキーにして、レギュラー選手の故障で1軍に抜擢されスタメン出場したと思ったら、その日の決勝打を放ち、ヒーローになった。  その後も夏生くんの快進撃は続き、チームの成績は上昇中だ。  言っておくけれど、私は野球好きではない。私の初彼氏、翔馬くんが好きなのだ。翔馬くんが夏生くんの華麗な守備やここぞで放つヒットに心を奪われ、つられて私も魅せられている。  つまり、二人とも夏生くん推しなのだ。ふふふ、なんて幸せ。 「夏生、すげーよな。甲子園には行かれなかったのに、プロになって交流戦で甲子園で試合しちゃうなんて、普通あり得ないよ!」 「だって、夏生くんだもん。球場で応援したいねー」 「行こう。…その、ナイターってすっごく遅くまで試合することもあるからさ、お泊りで」 「お泊りで…」  思わず復唱してしまう。私たちはその、清い関係だ。翔馬くんが少し焦る。 「やらしい意味じゃなくて。4時間以上試合が続くこともあるんだ。18時に始まって、23時近くに終わるってことだよ。試合が終わってからヒーローインタビューもあるし、夏生がヒーローだったら絶対聞きたいし。そうしたら、終電がなくなっちゃうかもしれないし…」 「…じゃあ、バイトがない日がいいね」 「おう。いや、いれないでくれよ。この日、夏生の誕生日」  なんと、翔馬くんは既にチケットを買ってくれていた。やったー、初野球観戦!  しかも押しの誕生日!! 「野球を見に行くの、初めて」 「だろ、面白いよ。だけどさ、時間が読めないから…」 「お泊りって言ってもやらしくないんでしょ?」 「え? いや、そんなこともないこともないかも」 「どっち?」  くすくす笑ったら、翔馬くんにこつんとおでことおでこを合わせられた。 「友子としたいよ。こんなにかわいいんだもん。ずっと一緒にいたい」 「私も。でも、夏生くんの誕生日なのに、私たちイチャイチャするの?」 「それは、夏生への愛も確認するためだからいいんだ」 「何、それ」  緊張するけれど、とても嬉しくて楽しみ。 「夏生のお祝いにホールケーキを二人で食べよう」 「イチゴと生クリームたっぷりの?」 「そう、それ。お祝いしような、二人で」  夏生くんの誕生日は一週間後だ。その日も次の日もバイトは入っていなかった。  うん、たまたま、ね。
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