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おまけ 最高の出会い
「なあ、聞きたかったんだけど」
俺たちは新婚旅行に来ていた。ロールキャベツを箸でつつきながら、ふとオトに聞いてみる。
「ん? 何?」
「何で出会ったその日に結婚しようと思ったんだ?」
「えー、どうしたの急に?」
見合いしたその日に結婚決めた時点で思い切りのいいやつとは思ったが、どうしても気になった。
「いや、何となくな」
「気になる?」
いたずらっぽい目でこっちを見てくる。温泉から上がったばかりだからか、頬がほんのり赤く染まっている。
ドキッとした。
「べ、別に」
俺はオトから慌てて視線をそらした。すると、向かい合わせに座っていたオトは何故か俺の隣にくる。そして俺の顔をじっと覗き込んできた。
ドッドッと音が心臓から体全体に響くようだ。
オトが急にふふっと笑った。
「そういうところかな」
「へ?」
俺はドキドキしながらまぬけな声を出した。
「あのね、私の長所は素直なところなの」
自分を指さして言うオト。確かにそうだろうが、急にどうしたんだ。
「あんたの短所は素直じゃないところだよね」
それも確かにその通りかもしれない。ただ俺の場合、気が弱いからなかなか自分の気持ちを言い出しづらいというのもある。
「初めて会ったときのこと覚えてる?」
「あ、ああ」
俺はあのとき失敗したと思ったけど。
「あんたあのとき、私の顔見てさ、ものすっごく失敗した、って顔したんだよ」
「え!?」
まさか顔に出てたとは……。
向こうの親にも気づかれてたのかな。
「さすがにびっくりしちゃって。私初対面の人にあんな顔されたの初めてだったから。それでもう何か悔しくってね! 乗り気じゃなかったのに絶対この人に結婚したいって思わせてやるって思ったんだから!」
にっこり笑うオト。
「へ、へえー」
悔しさからの結婚する宣言だったのか……。こいつらしいと言えばらしい気もするが。
「……で、その後ロールキャベツをくれたの覚えてる?」
「あ、ああ。お前がロールキャベツ落っことしたから俺のをあげたんだよな」
好物だから本当は食べたかったけど、こいつの悲しそうな顔を見て、まあほんのちょっとだけ優しくしてやろうと思っただけなのだが。
「そうそう、私あのときあんたを落としてやるってことばっか考えてたから食べ物に集中できなくて」
こいつあのときそんなこと考えてたのか。淡々と食ってるようにしか見えなかったが。
ロールキャベツ食べたかったのに……。
「でね、そのときのあんたの顔見たらね、ああこれはもう絶対結婚するしかないって思ったの」
「は?」
え、ちょっと待て。直前まで怒ってたのに、ロールキャベツを渡したときの顔で俺との結婚を決めた?
全くもって意味不明だ。
「だって、いくら好物だからってロールキャベツ渡すときにあんな、あんな……。ふふ、ものすごく嫌そうな顔で渡されたら、もう……。あんた素直じゃないけど顔には出るよね」
思い出し笑いしてる。そんなにおかしかったのか。
「ふふ、まあそんな感じだから一緒にいて退屈しないなって。あんたには悪いと思ったけど」
オトが俺にもたれかかってくる。いい匂い、がする。俺は平静を装った。
「あ、そう」
こいつのこと前よりわかったような、逆によくわからなくなったような。
四ヶ月こいつと一緒にいてわかったような気になってたけど、まだまだ知らないことばっかなんだな。
けど、きっとこれから色々知っていくんだろう、こいつのことは。
とりあえず、これだけは聞いておきたい。
「ロールキャベツはおいしかったのか?」
オトは肩に乗せていた頭を持ち上げてきょとんとした顔でこっちを見た。
「もっちろん、おいしかったよ!」
それは今まで見た中で一番の笑顔だった。
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