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「…もう気づいちゃったんだ。流石だね、カグヤ」
すると、彼女はカヤを一瞥し。
瞬きの後にはもう、カヤの反対側の太枝に、胡座をかいていた。
「見くびるな。これでも、天津神の端くれだぞ」
「分かってるってば。ほんとに、すごいと思っただけだよ」
カグヤが不敵に笑うと、カヤは苦笑を深める。
『カグヤ』というのはカヤがつけた呼び名で、『天津伽久山主命』というのが彼女の本名だ。
つまり、明治の始め、この神社の建立と共に生まれた神が彼女である。
紫紺を帯びた長髪は、高天原直系の証。
歳はカヤよりずっと若いが、神格はカヤよりずっと上だ。
しかし、そんなことを気にする二人ではなく、今でも互いにあだ名で呼びあっている。
『カヤ』と『カグヤ』、何とも紛らわく、しかし似ているのは名前だけで、だが何故か妙に馬が合う、何とも不思議な二人であった。
「会ったことがあるのか。あの娘と」
「うん、まあね」
「…此処に来たことがあっただろうか」
「カグヤは知らないと思うよ。最後に会ったのは、カグヤが生まれる前だったから」
それを聞くなり、カグヤは訝しげにカヤを見る。
「どういう事だ。分かるように話せ」
「うーん、そう言われても…何処から説明したらいいのかなぁ…」
「最初から、順を追って話せばいいだろう」
「最初からか…うーん…」
口ごもるカヤに、カグヤが身を乗り出して詰寄る。
――と。
「――ッくしゅんっ!」
場違いに響いた、小さなくしゃみ。
「!?」
カヤは、慌てて辺りを見回す。
「っ、い、今の声…妖狐?」
すると。
桜の裏の茂みから、大きな三角耳が姿を現した。
まだ幼い金狐の娘だ。赤い紐で二つに結わえた髪が愛らしい。
くりくりとした大きな瞳が、決まり悪そうにカヤを見つめている。
「ど、どうして…、いつからいたの、どこから聞いてたのっ?」
「何だ。お前、気付いてなかったのか?」
動揺するカヤを後目に、カグヤが茂みに向かって言い放つ。
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