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恋愛マンガ大好きで他人の恋愛を覗きたい実咲はどうか知らないが、夕美としては、この見世物状態は居心地が悪い。
何度も経験すれば慣れるかと期待していたが、二年も経った今でも無理だった。
「せっかく二人が付き合うように手伝ったのに、なぁんにも教えてくれないんだもんなー」
「ふふ、だって……」
ちらりと夕美に意味ありげな目線をよこす宵子に、実咲もニヤリと嫌な笑みをむけた。揶揄する気満々な二人に夕美は黙ってサンドイッチを食べた。
シャキシャキレタスとトマトの酸味、チーズのコク。美味しいはずなのに。
「夕美……アンタはどうしちゃったのよ?」
「何が?」
「とぼけちゃって! そのアクセサリーよ」
「あぁこれ」
首元で白い輝きに、耳元で揺れるピンク色。細く品のあるそれらは一目で高級品であると見破られる。夕美はそれをなぞり、肩をすくめた。
目敏いな、さすが。感心する。
「なになに、買ったわけないよね。うち安月給だし。それってさ」
「うん、もらったの」
「うっそまじ! えー、いいなぁ」
「そう?」
「だって、それどう考えても安くないでしょ」
華奢で繊細ながらもふんだんに宝石があしらわれたアクセサリー。値段など聞いてもいない。
――俺の隣に立つのだから。
いやな主張で渡され、着せ替え人形のように着飾られる。彼が納得できる女として仕立てられた。夕美の感情など入る隙間はない。
「そうなのね。でも夕美はそういうの……なんというか得意じゃないわよね」
紅茶のカップを両手で持つ宵子が目を細めた。口の端が吊り上げて、品定めするような視線をよこす。瞳に宿る色は明らかだ。
夕美はぱくりとサンドイッチを食べ終えて、コーヒーを飲み干した。
「あたしもそんなのくれる恋人がほしーい!」
のんきな実咲の望みが落ちたとき、ふと夕美の後ろに誰かの気配がする。正体を知っている夕美は立ち上がり、振り返った。
「ずいぶんと、はやいね?」
「きみに早く会いたくてね」
わたあめのような甘さと軽さがある響き。後ろで待ち構えていたのは、夕美の婚約者だった。
昼休みに、すこしでも話したいと提案したが、律儀にも会社まで迎えに来たらしい。
「ちょ、ちょちょっと。夕美、このイケメン誰よ!」
「彼はお見合いで知り合った、孝雄さん」
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