初めから君に恋をしていた。

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 詰め所に常駐の魔導士がいなかったこと。  弱まることもない雨のせいで、猶予がなかったこと。  協力を申し出た二人の魔導士が、王都でも評判の若手実力者だったこと。  いくつもの事情が重なり、大雨の中での救助劇は、兄妹魔導士が牽引することとなった。  雨に打たれながら、二人が飛翔術で取り残された人の元へ向かう。それぞれ左右に一人ずつ肩を貸したり腕を掴んだりして自分の魔法の効果範囲に入れて、岸まで飛んで運ぶ。その繰り返し。 (なんでこんなことになってるんだよっ)  フィオナは喉元まで出かけた悪態を飲み込む。何しろ目を開けるのも困難な土砂降り。ただでさえ体力を削られる中での救助で、中洲がいつ濁流に呑まれるかもわかったものではない。  出立前に聞いた事情によれば、ほぼ全員が新兵とのこと。中洲には副団長、と呼ばれる白い制服姿の男もいたが「自分は最後で」と(かたく)なに固辞したことで、後回しと決まった。  重い体の男を両側に抱えて飛ぶのが三度。岸に置いて、すぐさま飛び立ったところで、一人で三人を抱えてきたバーナビーとすれ違う。「あとひとり。気をつけて」張り上げた声が耳に届き「わかった!!」とフィオナは返事をした。  濡れた体は芯まで冷えており、筋肉過多の男たちに重量をかけられた肩は軋んでいて、腕も足も震えている。(魔導士は体力が無いって? うっさいな)あと一人ならばまだ頑張れる。  自分を鼓舞して、よろよろと飛びながら中洲に向かった。目に流れ込む雨に視界を遮られつつ瞬きして見れば、ずぶ濡れの男がぼんやりと見上げてきているのがわかった。 「副団長のひと……」  このひと、本当に、最後だ。  近づきながら降下。まだそこには地面が残っているつもりで足を下ろしたのに、つま先が水に沈む。まずいと思ったときには両足首まですでに水の中で、ぬかるみにとられたようにまったく抜け出すことができない。魔力を込めて、強引に飛び上がろうとしても、追いすがってくる水力が強すぎる。  あっという間に顔まで水に浸かって、荒い呼吸の合間にガボガボガボと水を思い切り飲み込んでしまい、パニックに陥る。  沈む……、  沈む、動けない、どうしよう、溺れてしまう……!  慌てたそのとき、何か大きなものに包み込まれる感覚があった。誰かが自分を助けるために、濁流に飛び込んできたのだ。誰か。誰かって。 (私はあなたを助けにきたのであって、助けられている場合では……)  体力を削られていたこともあり、手足がまったくいうことを聞かない。雨と水流の激しい音に身を浸し、口をきくこともできず。  なすすべもなく相手の腕に身を任せているうちに、いつの間にか意識を失っていた。  * * *
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