初めから君に恋をしていた。

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 夏の夜の出会い以降、フィオナは王都でメルヴィンとしばし顔を合わせるようになった。  ただし、仲が深まるどころかぶつかるばかり。 「魔導士も体力つけた方が良いって言うから、聖騎士団の訓練に参加しているのに! 手加減というものを知らないのか!」  たとえば、騎士団の訓練場にて。  基礎の運動を騎士たち並にこなした後、慣れない剣も覚えようと四苦八苦していたら「稽古は私が」とメルヴィンが口を出してきて、そのまま完膚なきまでにこてんぱんに叩き潰されるという悪夢。  一度や二度ではない。  フィオナを見つけると、決まってメルヴィンが出てきて立ち上がれないほど打ちのめしていくのだ。  慣れてしまった団員たちが、「やれやれ」「またやっている」と見ている中、フィオナがいつまでも倒れたままだと、メルヴィンがようやく優しさを発揮。荷物のように肩に抱え上げる。 「はなせ、おろせ。きやすくさわるな、潰すぞ!!」  フィオナがばたばたと暴れても、鍛え抜かれたメルヴィンの腕はびくともしない。  その挙げ句、感情のこもらない声でそっけなく言うのだ。 「潰そうにも、魔法も行使できないほど疲れさせたつもりだ。足りなかったか?」 「どれだけドSなんだよ……! そんなにあの救助のとき私が、魔力体力切れで溺れたのを根に持っているのか?」 「べつに」 「じゃあ、なんで。もっと他にやりようが」 「無い」 (……強情っ)  口数は多くないのに、一度言い合いとなれば譲るところがない。騒ぐフィオナなどどこを吹く風、抵抗も一切通じない。恐るべき腕力。  圧倒的な力の差があるのに、遠慮容赦なくねじ伏せてくるのだ、いつも。 「こんなの……。一方的に私がいじめられているだけじゃないか。練習になっているなんて思えない」 「強くなった実感はないのか?」 「知らないよっ。あなた以外と手合わせすることがないんだ。負け続けてばかりじゃ何もわかんないって。なあ、今度は他のひとと」 「だめだ」 「だから、なんで……。あなたと私は実力に差が開きすぎている。そのくらいわかるだろ?」  騒いでも、持ち上げてみても、まったく相手にされない。  いっそ訓練に参加するのをやめようか、という考えが過ぎったりしないでもないのだが、どうしても言い出せない。  メルヴィンが丁寧に治癒魔法を施してくれて、そのまま「訓練の後には食べる物にも気をつけるように。筋肉になるものを」と言いながら行きつけの食事処に連れていってくれるせいかもしれない。そこまでアフターケアしてくれるなら、あまり悪し様に言っても……と思い「やめる」と言うのをやめてしまうのだ。  そうして通い続けたある日、フィオナが訓練場に顔をだすと、メルヴィンの姿がなかった。  * * *
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加